広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学部見学研修を終えて

● 井上 侑子さん (第5学年次)

ito01.jpg今回、8月10日から17日の8日間ワシントン大学での研修に参加させていただきました。4日間のMcCormick先生をはじめとする専門性の高い先生方による生命倫理学のセミナーやがん研究センター、急性期病院、腎センター、子供病院、ホスピスなどの施設見学及び先生方との会話を通して、生命倫理の大切さや考え方、患者さんとのコミュ二ケーションの取り方、アメリカと日本の医療の違い、日本の医療がこれから改善すべき点など様々なことを学ぶことができた貴重な時間でした。

 どのレクチャーもとても興味深い内容だったのですが、その中でも特に印象的であった 内容について書きたいと思います。まず、McCormick先生の示された4box法についてです。4つの箱の項目として①医療の情報②患者さん・家族が何を望んでいるか③QOL④患者さんをとりまく背景(兄弟、家族、宗教など)があります。小児の緩和ケアのレクチャーの中で、実際に4box法を用いた症例提示があったのですが、とても衝撃を受けました。患者さんに4つの項目を埋めてもらい、その後話し合いをして最も良い方法を考えるという流れを何度か行ないます。症例の女の子では、治療の当初は彼女にとって③のQOLを高める項目が数多くあったのですが、2、3回目の話し合いなるにつれて項目は減少していき、「家に帰りたい」の1つになりました。しかし、終末期の段階には項目の数が増えていたことに驚きました。このことから、治療の段階に応じてこの4box法を用いることによって、患者さんは心の整理をし、自分の置かれた状況を違う観点から見直すことができるようになり結果としてQOLが高まることがわかりました。さらに、医療従事者も疾患が患者さん・家族に与える影響を学ぶことができ、より良いケアや患者さんのQOLの向上につながることがわかりました。終末期の患者さんや御家族とのコミュニケーションは難しいですが、日本でも今後4box法を取り入れることができると患者さんの思いに沿ったケアを行いやすくなるのではないかと感じました。

 次に、チャプラン制度についてです。チャプランという職種があることを今回初めて知りましたが、アメリカではホスピスにおけるチームの一員としてもチャプランが活躍していることを知り驚きました。人間のtotal painには、身体的・精神的・社会的・霊的疼痛があり、この中の霊的疼痛に対処するのは医師・看護師はもちろん、アメリカではチャプランの仕事でもあります。先生のお話の中で、人間は誰しも病気になって初めてspiritualityが出てきて、生きるという意味・生きる目的・人とのつながりを意識するようになるという言葉が心に残りました。チャプランの役目として①患者さんの心に寄り添う②宗教上の葛藤の手伝い③患者さんの価値観を認め共有する④患者さんが生活の変化に対応できるようにするなどが挙げられます。価値観の見直しにおいては、たくさん話を聞き、患者さんの声に耳を傾けることがとても大切で、これにより患者さんは価値観を見直し、より良い治療の意思決定ができるようになると学びました。さらに、チャプランは患者さんと接して心の乱れた医療従事者の心のケアも行うことを知りました。今回、医療において患者さんの心の声を聞いてあげることのできる職種の大切さを改めて実感しました。ある先生が日本の緩和ケアでは、ペインコントロールはできているが、患者さんとの対話をより改善するべきとおっしゃっていました。今後日本でもチャプランのような職種が広まると、より良い医療ができるのではないかと思いました。

さらに印象に残ったのは、尊厳死についてです。日本における尊厳死の定義は、過剰な 延命治療をせず、人間の尊厳を保ちながら死を迎えることです。一方で、アメリカにおける尊厳死は薬を用いる積極的安楽死のようなもので、日本とアメリカでは大きな違いがあることを知りました。具体的に、18歳以上の成人・尊厳死が認められている4つの州の居住者・医師による今の疾患は治る見込みがないという診断・余命6ヶ月以下などの項目を満たす患者さんに適応されています。実際には、家族にみとられながら、音楽をかけたりお酒を飲んだりしながら時を過ごし、患者さんが自分の手で薬を飲むのですが、薬を飲む前の患者さんは、つらい治療や痛みから開放され幸せそうな顔をしていると聞きとても驚きました。しかし、私が医師になった際に尊厳死を望む患者さんがいたとしても簡単に引き受けることができないと感じましたが、アメリカにおいて尊厳死法は、現実には尊厳死を行うための法ではなく、尊厳死という選択肢があるという事を示しつつ、患者さんや御家族とコミュニケ―ションを深めていくツールとなっていると教えていただきました。

 今回のセミナーでは、この他にも臓器移植・遺伝子診断などの生命倫理問題について多くのことを学び、考えることができました。日本では、生命倫理について詳しく学ぶ機会が少ないので医師になる前にこのような素晴らしいセミナーを受けることができたことを嬉しく思います。将来医師になった際には、今回学んだことを十分に活かしたいと思います。今回の研修では、生命倫理に関するセミナーだけでなく、実際に英語を話す経験をすることができ、また観光もさせていただき、とても有意義な時間を過ごすことができました。最終日のFarewell Partyでは感無量になりました。最後になりましたが、今回このような貴重な機会を与えてくださった山西先生、引率してくださった古山先生、蒲生先生ご夫妻、野口先生、古瀬先生、私達を温かく迎えてくださったMcCormick先生をはじめとするワシントン大学の先生方、そしてこの研修に関わってくださったすべての方に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

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