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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学研修を終えて

● 秋田 充代さん (第5学年次)

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まず初めに、今回ワシントン大学の生命倫理の研修に参加させていただいた動機を少し書きます。今までは疾患を教科書の文面での症例でしかとらえられていなかったのですが、5年生になり病院実習が始まって実際の臨床現場で患者さんと接するようになると、検査や治療を進めていくにあたってどういった気持ちなのだろうか、それに対してどういうサポートが必要なのかということを考えるようになりました。医療現場での精神的ケアの重要性を感じ、告知や終末期医療、遺伝子診断、緩和ケアなどいろいろな場面で倫理的問題が関わってくるということを実感しました。そこで、今回のプログラムで生命倫理についてじっくり考える機会を得たいと考え参加させていただきました。

 ワシントン大学でのMcCormick先生をはじめ多くの先生方の尊厳死、臓器移植、終末期医療など様々な講義やFred Hutchinson Cancer Research Center、Northwest Kidney Center、Children’s Hospitalなど施設見学はどれも新鮮で刺激的でした。そのなかで特に印象に残ったのはchaplain、人工透析、尊厳死、小児の緩和ケアについてです。

 Chaplainは終末期医療の患者さんがもつスピリチュアルな苦痛によりそう職業であり、アメリカのホスピスでは重要な存在です。宗教的な問題だけではなく患者さんの心に寄り添い耳を傾け、人間性における生きる意味や残り少ない人生を生きる目的を共に考えたり、周りに残したいもの、伝えたいことなどを聞いてあげたりします。また、患者だけでなく医療従事者の心のケアも行い医者と患者間でのわだかまりを解決するということも大切な仕事です。現在日本の緩和ケアは医者、看護師、薬剤師、カウンセラーなどからなるチームで行われていますが、日本でもchaplainのようなスピリチュアルなケアに特化した存在が必要であると考えるとともに、chaplainは特定の宗教の母体から認定された職業なので宗教色の強くない日本ではどういった基準で認定するのか難しい問題であると感じました。
ただ、日本はアメリカなどにくらべ宗教的なスピリチュルは少ないものの日本人の伝統、文化、作法には美しいスピリチュアルな精神があふれているとおっしゃって頂き、普段私はそのようなことを意識したことがなかったので、とても考えさせられました。

次に透析についてです。世界で最初に透析を始めたNorthwest Kidney Centerでお話を聞きました。アメリカには日本のように国民皆保険制度というものは存在せず、医療費は民間保険、65歳以上は高齢者保険でまかなわれています。そのなかで人工透析のみ医療費が全額公費でまかなわれています。これにより、腎不全の患者は助かるでしょうが、まだ透析を受ける必要がないのに希望する患者が増えています。透析を受け始める基準というものは存在せず、患者の希望によるものであり、透析を断る人基準も少ないということが透析患者が増えている要因でもあります。アメリカにおいて最大の死因は心疾患であり、透析だけではなく心疾患にこそ医療費の援助が行なわれて多くの患者さんをサポートしてほしい、また透析にいたるまでに糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの腎疾患患者の医療費もサポートすることによって透析患者を減らしてほしいと感じました。透析のみ医療費が優遇される理由としては1972年に議会に働きかけたという歴史があるからだとおっしゃっていましたが、見直しの必要性を強く感じました。

 次に尊厳死についてです。アメリカの尊厳死とは日本でいう過剰な延命治療をせず人間の尊厳を保ちながら命を終えることではなく、薬物を用いて行う積極的安楽死のことを指します。アメリカでは50州それぞれにおいて法律を決定し独立して医療が行われており現在は4州のみ法で尊厳死が認められています。ワシントン州はそのうちの1州です。尊厳死のおこなわれ方は2回口頭で医師に頼み、1回書面で頼むなど細かく決められており、条件にあてはまるには自分の意思を伝えることができる人、自分自身で致死薬を飲むことができる人でなければなりません。よって、この方法では植物状態の人やALSの人、認知症や精神障害を合併した人などでは行えず公平ではないと感じました。ワシントン州内でも尊厳死は自律性を尊重したもの、ケアの一環だという賛成派がいる一方で尊厳死は医師の治療を行うという宣誓に反している、治らない病気をもつ障害者や自閉症を合併した方がいつ死んでもいいという考え方をもち容易に命をたつことを選んでしまうのではないかといった反対派もいます。また、尊厳死を実行する医師も自身の道徳感と戦い、精神的に苦しみ大変な思いをしているそうですが、今はまだ医師の精神的ケアは十分に行われていないようです。日本では、やはりこの尊厳死の考え方は自殺扶助にあたると考えられ、そのままでは受け入れられにくいであろう、受け入れられるにしても方法や条件の改善や実行する医師の精神的ケアを徹底するなどといったことが必要であると感じました。州によって法律が違うということは自律性を尊重され、その州の住人の意思が反映されやすい反面、自分の州ではこの治療法が認められていないから他の認められている州に移って治療を行ってもらうといったことも起き、問題が生じてくるのではないかと考えます。現にMcCormick先生に聞くと人工妊娠中絶が認められていない州から認められている州に移り母親が中絶をおこなっていることもあるとおっしゃっていました。

 次に小児の緩和ケアについてです。本来ならガンを告知された後、治癒期を経て緩和ケア期に入りますが、Children’s Hospitalではカナダのモデルに従い、診断後、初期から治療と並行して緩和ケアを行っています。4つの箱で医学的適応、患者の意向、QOL、患者をとりまく背景にわけて患者の状況を把握しこれらをまとめて一番よいケアの仕方を考えます。このツールを用いることで治療初期、病気進行期、慢性期のその時々で患者さんが一番望んでいることを進めていくことができQOLが向上されます。Children’s Hospitalの緩和ケアは半分ほどの子供がこのツールを用いています。骨髄移植の患者さんの例を用いて、この4つの箱に入ることを説明して頂きました。倫理というのは、先に定義や法則を学んでもイメージがわきにくいものですが、実際の症例を用いて定義、法則を当てはめる方がイメージがわき、考えやすいと感じました。子供がある程度大きく治療や緩和ケアにあたって十分な理解力があるのであれば緩和ケアを初期から行うことはおおいに効果があると思います。しかしながら、小さい子供はまだ自分の病気についてはっきりわかっていなかったり、重症度や余命など理解がしにかったりします。例えば、治癒する見込みの低い子供をもつ母親はその現状を受け入れたくない、治ると信じたいと思うがあまり子供に「あなたの病気はきっと治るのだから、頑張って治しましょうね。」と言っていた状況の場合、初期から緩和ケアを行ってしまうことによって子供が自ら「自分は治らない病気にかかってしまったのだ。もうすぐ死ぬのだ。」と悟ってしまい、治療の進行に支障がでてくるのではないか、そういう場合どう対処していったらいいのかと疑問に思いました。先生に聞いてみましたが、アメリカでは、子供自身も何かしら感じていることはあるので、母親や医者が子供に嘘をついて本当の病名や治療状況を隠すことはないのであまりそういう問題には出くわさないとおっしゃっていました。

 この研修を通じ、このような生命倫理に関する色々な疑問点をじっくり考えるいい機会になりました。毎日感じること、得るものが多く本当に充実した1週間でした。ここで思ったこと感じたことは決して今回だけではなく、医者になってもずっと心に留めておこうと思いました。そして、アメリカの医療について学ぶ前にもう一度日本の現在の医療システムや現状についても説明できるようになっておかなければいけないと改めて感じました。

 最後になりましたが、今回ワシントン大学でこのような貴重な経験をさせて頂き、心から感謝致します。枚方療育園の山西先生、ワシントン大学のMcCormick先生を始めとする先生方、研修中お世話になった古山先生、野口先生、蒲生先生、古瀬先生、この研修に携わって頂いた皆さん本当にありがとうございました。

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