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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

コロンビア大学の留学を終えて

● 岸本 茉里さん (第6学年次)

私は2013年4月1日~4月26日まで、ニューヨークにあるコロンビア大学の病院、Columbia University Medical Centerの循環器内科で、本間教授のご指導の下、臨床実習をさせていただきました。学生生活では、私は常日頃からなるべく多くの経験をし、それを将来の自分自身の働き方に活かしたいと意識してきました。そんな私のかねてからの希望であった今回の留学は、これまで自分が努力してきたことを新しい世界で挑戦するチャンスだと思っていました。そのため、念願のコロンビア大学留学の機会を与えていただいたことに深く感謝しております。本稿では、今回の留学を通して、一人で降り立った初めてのニューヨークで私が学んだこと、感じたことを報告させていただきたいと思います。

 コロンビア大学循環器内科では、毎朝7時から、各チームの患者のCase Conferenceが日毎に行われ、引き続き8時からMorning reportや著名人を招いての講演会などが行われます。コーヒーやベーグルを頂きながらのカンファレンスは私にとって本当に新鮮でした。ランチを取りながら、昼12時からはFellow(Residentの経験を3年間した後に、Fellowとして働きます)の研究についてのプレゼンテーションや、勉強会があります。臨床で働きながらそれぞれに研究をしているFellowのプレゼンテーションは、個人の視点や工夫をよく組み込んでおり、私はこの時間を一番気に入っておりました。このような昼の時間の使い方は、プレゼンテーションの訓練にも教育の充実にもつながる、合理的な方法だと感じました。中でも驚いたことは、アメリカ人がとても議論好きであることでした。カンファレンス中に議論が一旦始まると、各々が自分の考えを口々に発して、ディスカッションの輪が広がってゆきます。慎ましく発言しないなんて人はまずいません。日本がNon-verbal communicationを重視する国であるのに対し、アメリカはVerbal communicationの国で、言葉に加えて表情も豊かな人が多いことが魅力的でした。そうした環境下では感情や言葉が伝わりやすく、私は比較的早く周囲の人々に溶け込めたように思います。

 1週目にはCCU(Coronary Care Unit)を見学し、心臓の手術後のより高度なケアを必要とするCT-ICU(Cardiothoracic Intensive Care Unit) も見学しました。参加した午前の病棟ラウンドでは、患者の情報を多くのスタッフで共有していました。他にも印象的だったのは心臓血管外科のLVAD(Left ventricular assist device, 左室補助循環装置)のカンファレンスです。そこでは予めに適用のアルゴリズムがあり、緊急の場面で“A”となったら“Bする”という流れが細かく決まっており、即座に判断が成されます。この基準を提示した上で、さらにどのような治療やコントロールが必要になるかを議論します。彼等がこのように医学をまさに前進させているかのような姿に強く魅かれました。外来では、心臓移植後の経過観察をされている患者の心筋生検を見学しました。少人数のスタッフによる、短時間の手技とその手際の良さに驚きました。これは、医療資源が有限であり、それを有効に活用する事を意識したアメリカの医療のスタイルなのだと感じました。また、時間の空いた時に心移植のために渡米している日本人の子供たちにも会いに行きました。そこで子供たちも両親もそれぞれに大きな思いや悩みを抱えているのだと考えると、私は複雑な心境になりました。

2週目はConsulting Teamに所属して、珍しい症例の診断をつける様子を間近で学ぶことができ、貴重な機会となりました。患者さんはヒスパニックが多く、彼等はドミニカからの移民で英語を話さないため、医師はスペイン語での診療を行っていました。私もその患者さん達を診察した際、私の片言のスペイン語が通じたことを嬉しく感じ、世の中の広さと語学学習の必要性を強く感じました。また患者さんの診察では、身体所見の生理的な理解を求められ、私はそれを改めて英語で学ぶことができ、日本語とは違った理解の仕方ができたと、嬉しく思いました。空いた時間には、コロンビアの医学生(3,4年生)とコーヒーを飲みながら学校やお互いの国の話をして交流を深めました。他には、経食道エコー下でのカテーテル治療の症例についてFellowに説明を求めると、私のような学生に対しても時間を割いてとても詳しく教えてくれました。アメリカの医学教育では自らが意識を高く持ち、教わりたいと望む限り、皆が本当に優しく指導してくれるのだと思いました。

 3週目はElectrical Physiologyのチームに参加しました。カテーテル治療を必要とする患者さんの毎日の心電図を読影し、そのチームのFellowからたくさん教わりました。すると、以前の日本語での知識から派生して新しい知識が身に付いていくことが実感でき、大変嬉しく感じました。逆に自分の未熟さを痛感する場面も多々ありました。ある日、成績トップである医学部の4年生と一緒に患者さんの問診・診察をした際、彼女は患者さんに対して立派で堂々とした様子であったのに対して、私はまだ学生気分のままであり、彼女との違いに自らを情けなく思いました。しかし、落ち込む間もなく、気を取り直し、彼女の姿勢を見習いました。なぜなら、時間の限られた私は、自らのできる事を全力でやるしか他に方法がないからです。同時に、臨床・教育・研究について私がどのように関わっていけるのかを考える、とても良い機会になりました。

 ところで、アメリカの教育でクリスマ (CRISMA ;Clinical Research, Investigation and Systems Modeling of Acute illness)というものがあります。ICUにおける、スタッフの教育体制やシステム構築について、基盤となる判断基準や手順を新しく作っていくことを目的とした教育です。これまでに日本ではあまり馴染みのない教育基盤ですが、このような教育が基となって、スタッフ各々がチームの一員であることを自覚し、仕事に取り組むことができているのだろうと考えました。また、臨床だけでなく研究の現場についても学びたく、コロンビア大学で研究者として働く日本人の研究発表会に参加しました。高度な研究にもかかわらず、私のような学生にも分かりやすい話の進め方が印象的でした。内容は味覚の研究でNATUREに掲載されたものであり、貴重な講義だったのですが、それ以上に、自然の摂理から多くを学ぶ姿勢や、海外の第一線で活躍する日本人を見られたことが、とても良い刺激となりました。私は充実した毎日からたくさんの事を学び、そのうちの何を日本に持ち帰れるかを考えながら、滞在できるのもわずか1週間ほどしかないという、過ぎる時間の速さに焦りを感じていました。

 最終週である4週目はAdult Congenital Heart Diseaseのチームで、成人の先天性心疾患について学びました。Marfan syndromeの大動脈弁閉鎖不全症を合併した患者さんや27歳女性の大血管転移症などの興味深い症例を学びました。そして、最終週には、もし症例があれば見学させてほしいとお願いしていた、心臓移植の手術にも立ち会うことができました。私は外科医のドナー側のチームに交じってニューヨーク市内の別の病院へ向かいました。緊急の移植手術にも慣れた周囲に対して、経験のない私は終始興奮気味でした。先方の病院に到着し、手術室に入りました。脳死判定をされたドナーの心臓は動いているのに、もうその身体は生きているとは見なされないというのは実に奇妙な感覚で、日本とアメリカの価値観の違いについて考えさせられました。ドナーの身体から心臓を摘出したのは8:44PM。Columbia大学に戻り、手術が再開されたのはわずか16分後の9:00PM。それから1時間15分経過した手術の終盤に、外科医が除細動やペーシングを施す間、私は弱く打つ心臓が再び力強く血流を生み出すのを願うように応援していました。それは実際よりもとても長い時間に感じました。そして、心拍の再開した瞬間、身体の緊張が一気に解けました。執刀医に感動と感謝の言葉を述べて、何とも言えない高揚感と共に手術室を後にしました。これまで、私は医学生として医学の勉強をしてきましたが、今回の貴重な経験を通して実際に、引き継がれた“命”の大切さを強く感じました。それは将来、私が医師として人の命を救う医療の一旦を担うことについて、深く考える機会となりました。

 コロンビア大学での貴重な4週間を通して私が一番強く感じたことは、医療とは、人から学び、それを人のために還元する“繋がり”であり、これは世界共通なのだということです。だからこそ、私は医師としての人間性を養い、国際的な広い視野を持って医療に携わっていこうと強く決意しました。

 この様々な機会と幸運に恵まれた留学の経験をもとに、私は自身で感じ、考えたことを活かして、日々弛まず努力していきたいと思います。最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださいました、循環器内科の増山教授を初めとする諸先生方、コロンビア大学の本間教授、中教授、同循環器科の先生方、協和会の皆様、全ての方々に深く感謝を致しております。本当にありがとうございました

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