広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学部見学研修を終えて

● 野井 拡さん (第5学年次)

 この度、私達は8月18日から25日にかけての8日間にわたって、シアトル、ワシントン大学を訪れ、bioethics(生命倫理学)における世界的権威であるMcCormick先生を始め、その他大勢の著名な講師の方々による講義を受けさせていただきました。講義内容は、どれもbioethicsに関するものでありながら、bioethicsの起源、遺伝子解析に伴う規制、終末期医療における患者さんとの接し方、NICU症例における倫理的判断、臓器移植などと、広いジャンルにわたって貴重なお話を聴くことが出来ました。

 今回の研修で私が興味を持った講義をいくつか紹介させていただきます。まず1つ目は、Dr. Tom Standjord先生が話してくださったNICUについての講義でした。既に兵庫医科大学で私は小児科学を学んだにも関わらず、先生の講義はとても新鮮な内容ばかりでした。日本を含め、アメリカでも医療技術の進歩により、NICUの分野でも多くの幼い患者の命を救うことが可能になりましたが、その陰で生じる新生児の疾病、身体的障害の存在が治療方針の決定に大きく関与するようになっているそうです。障害を抱えた未熟児は自身の意思決定を行えない状況に置かれ、児の予後にとって何が良いかを決定できる権限は全て親に委ねられているので、医師は親の決定を援助することしか出来ません。こうした現状で児にとって最適かつ最良の決定が出来るかはいかにbioethicsに基づいて医師が助言できるかに掛かっており、アメリカでは主に過去のエビデンスをもとに治療方針を決定してしまうのだそうです。日本では、重篤な小児患者でも果敢に治療を施す例が多いのを病院実習でも見学させてもらっていたので、国ごとによって治療のriskとbenefitの重視の度合いが異なるという事実を知ることが出来ました。

 2つ目は、Kathryn Hinsch先生が講義して下さいました遺伝子改変に伴う規制のあり方についてです。近年の遺伝子操作技術の進歩の早さには目を瞠るばかりで、科学技術の進歩の早さに倫理的判断が遅れをとっているように思えてなりません。そうした現状を踏まえた上で、先生が強調して話してくださったのは、「技術が進歩した際に必ず、誰が利益を得て、誰が不利益を被るのかを明確に意識した上で、その技術を用いるべきである。」という、ついつい看過されてしまいがちなポイントについてでした。「遺伝子改変技術は疾病治療のために用いられるべきであり、親のエゴによって完璧な子供を作るツールとして利用されてはならず、そもそも、完璧な遺伝子の人間を作ろうとする試み自体が、子供を商品として選ぶ対象に加えた優生学の見解に因るものであり、親が自身の子を健康に成長できるように見守るという大切な人間性としての義務も軽んじている。」と先生は熱弁されてらっしゃいました。日本でも、この遺伝子改変技術は今後、大いに役立つ技術として重要視されているだけに、講義を聴いている私自身も深く考えさせられる内容でした。
遺伝子改変技術を用いることで、特殊な疾病に悩んでいる患者さんに対して個別の治療薬を合成することを可能にし、多能生幹細胞を用いた再生医療を更に発展させることを期待すると、やはり安易にこの技術を禁止してしまうのも間違っていると、私は考えました。

 他にもbioethicsに基づく多岐にわたるジャンルの講義を受けさせていただきましたが、今後の私自身の臨床の現場における医師像として、「いかに患者さんの心情を察して共感し、患者さんの納得のいく治療を提示できるか」が改めて重要なポイントになるのだと実感しました。将来、予期せずして私自身がbioethicsに基づいて判断しなければならない時が、場所を問わずして訪れる可能性があり、少しでも患者さんの苦痛に心から寄り添って共感できる医師になりたいと思いました。

 最後に、今回このような機会を与えて下さった枚方療育園の山西先生・古山先生、服部先生、ワシントン大学のMcCormick先生を始めとする講師の方々、国際交流センターの大辻さん、そして引率して下さった関係者の方々、皆様に心から感謝したいと思います。貴重な体験をさせていただき、本当に有難うございました。

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