広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学部研修を終えて

● 中川 頌子さん (第5学年次)

w01_1.jpg この研修に応募したのは、将来、医師となり、さまざまな患者さんと接するうえで考えなければならない生命倫理について学びたいと思ったからである。また私はその中でも特に「死」について深く考えたいと思っていた。なぜなら死というものは遅かれ早かれ誰にでも平等に訪れるものであり、たとえ医療が進歩したとしても、避けては通ることができないからである。死の迎え方はゆっくりであったり、突然であったり、人それぞれであるし、死を迎えるための準備ができる人もいれば、そうでない人もいる。しかしどんな場合でも、その人が最期までその人らしく安らかに過ごせるように、医師として、そして1人の人間として何ができるのか、そういったことを考えたいと思うようになった。そして日本とアメリカでは死に対する考え方はどのように違うのか、文化や宗教が違えば倫理観はどのように違ってくるのかということを実際に目で見て、肌で感じてみたいと思ったのである。また海外の医療に触れることで視野を広げたいとも考えた。

 この研修の中で最も心に残ったのは「チャプラン」に関する講義である。この研修で初めてチャプランという存在を知った。チャプランは聖職者であり、患者さんやその家族の心のケアを行う人のことである。終末期の患者さんは、病気になったことによって多くの大切なものを失い、またどうしようもない悲しみ、怒り、そして苦しみを抱えて毎日を過ごされている。チャプランはそんな患者さんのそばに寄り添い、話を聴き、その中で今までその患者さんが「どのような生き方をしてきたか」、「楽しかったことは何か」、「家族に残したいことは何か」といった患者さん自身のことを知ろうとする。このように患者さんの価値観を読み取っていくことで、もう一度、一緒に人生を振り返り、今、この患者さんに対して何が一番必要かということを探していくのである。このような患者さん一人ひとりとじっくり向き合い、悲しみや苦しみなどすべての感情を共有してくれるチャプランの存在はとても心強いと思った。

w01_1.jpg 実は私は約1年半前に父を病気で突然亡くした。今回の講義を聴きながら、私たち家族の悲しみを受けとめてくれるチャプランのような存在がいてくれればよかったと思い、「急に家族を亡くした人がいたとして、その残された家族に対して、チャプランは介入することはありますか。」と質問をした。救急病院などではよくあるという答えをいただいたので、安心した。

 このチャプランの講義を聴いた夜、引率してくださった蒲生先生の奥様とお話をしていた際、上記の質問の話となり、それがきっかけかどうかは自分でもよく分からないが、父が亡くなった時のことや、自分の気持ちなどあらゆることを思い出し、泣いてしまった。涙をとめることができなくなってしまった。蒲生先生ご夫妻、同じような経験をした友人・・・みなさんがこのような状態の私をあたたかく受けとめてくれ、これまで抑えていた(であろう)感情を吐露することができた。また先生方も私たちに多くを語りかけてくださった。父の死後、後悔することは数多くあるが、家族なのだからお父さんも分かってくれているよね、と自分自身を納得させ、前を向いて楽しく生きていこうと決め、踏ん張ってきた。自分の中に湧き上がる感情を自分なりに処理したつもりであった。しかし、あの教会のような小さく、心安らぐ部屋で講義を聴いて、今まで無理して抑え込んできた思いが再び湧き上がってきて、あふれ出してしまった。残された家族も何らかの形でキューブラー=ロスの「死の受容」の過程をたどるのである。この講義を聴いたことで、またみなさんにあたたかく包んでいただいたことで、自分の思いを咀嚼し、この「死の受容」の過程をすすめることができたと思う。誰かがそばにいてくれて、思いを共有してくれて、心の支えとなってくれることがこんなにもあたたかく、そしてこんなにも癒され、救われるということを実感した。ありがとうございました。

 またMcCormick先生も家族の死について私たちに語ってくださった。「ワシントン大学でも親を亡くした学生がいて、大学生活を続けられなくなった人もいるよ。だからあなたたちがそうやって医学の勉強を続けているのは強いし、勇気のいることだよ。」と言ってくださった。また「自分に手伝えることがあれば力になりたい。このような経験はまわりの学生はあまりしていないだろうし、特別なことだけど、将来患者さんを診るときに必ず役に立つよ。」とあたたかい言葉をかけてくださった。McCormick先生のお言葉、包み込んでくれるようなやさしい笑顔に勇気をもらった。父のためにもこれからもがんばっていこうと強く思った。

 講義の中でSpiritual Careについても学んだが、蒲生先生ご夫妻やMcCormick先生が私たちにくださったのがきっとSpiritual Careなのではないかと感じている。このようなSpiritual Careを提供できる医師になるために大切なことは一人ひとりの患者さんの声に耳を傾け、動じないようにしっかりとした強い基盤をつくることだと教えていただいた。これまでの臨床実習で患者さんのお話を聴いているうちに感情移入をしすぎて、苦しくなった経験があるのでこのアドバイスはとても心にしみた。さらに強い基盤をつくるために必要な要素として「強さ」、「flexibility」、「逆境に負けないこと」の3つを教えていただいた。これから患者さんと接していくうえでこれら3つの要素をどのように盛り込んでいけばいいのか、今後も考えていきたいと思う。

 この研修を振り返って、今、参加できたことを本当にうれしく思っている。アメリカはやはり日本と文化や宗教が違い、見るものすべてが刺激的で、驚きの連続であった。海外の医療に触れたことで視野も広がった。また自分が家族や先生、友人など多くのやさしい人たちに支えられて生きているということに改めて気が付いた。新しい出会いも多くあった。また一緒に参加した友人とは講義中に共に生命倫理について考えたり、またそれだけではなく、一緒に観光に行ったり、多くの時間を共有することができ、かけがえのない経験となった。この研修で学んだことや感じたことを忘れることなく、一つひとつを大切に積み重ねて、これからの人生に活かしていきたいと思う。生命倫理の問題はやはりデリケートで簡単に結論を出すことはできない。しかし今後これらについて考え続けたいと思っている。そして患者さんとその家族の気持ちに寄り添い、あたたかいSpiritual Careを提供できる医師になりたい。

 最後になりましたが、このような研修の機会を与えてくださった山西先生、引率してくださった古山先生、服部先生、蒲生先生ご夫妻、スタッフの方々、そして私たちをあたたかく迎えてくださったMcCormick先生をはじめとするワシントン大学の先生方、見学させていただいた施設の先生方、そして一緒に参加した仲間たちに感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

 私は立派な医師になるべく、これからも努力を続けて参ります。

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