広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学医学部生命倫理に関する研修に参加して

● 草壁 みのりさん (第5学年次)

w01_1.jpg 私は先日(8月18日~8月25日)8日間、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルにあるワシントン大学医学部Health Science Centerでbioethicsについての研修プログラムに参加した。参加した動機として、5回生から始まった臨床実習から得た感情によるものが大きい。そこで会った患者さんは何かしらの疾患とともに大きな不安や迷い、戸惑いを抱いている方がほとんどであった。その方々に対して医師は限られた時間で診断し、治療を行わなければならない。「傾聴し、共感することで患者さんにあった医療を提供する」ということが必ずしもかなわない現状から来るジレンマや、私が医師となったときにさまざまな背景と感情を持つ患者さんとどう向き合うべきなのかを考えてみたいということから私はこのプログラムに参加を決めた。

 研修自体は月曜日から木曜日の朝から夕方までの4日間であったが、さまざまな医療分野における「生命倫理」について新しい考え方や具体的なツールを紹介していただき、とても興味深く、わくわくするものだった。

w01_1.jpg 特に印象的だったのが、「Chaplain」の存在である。Chaplainとは、ある一つの宗教のスペシャリストであり、医療現場において宗教的観点から心のケアを行う職業である。その仕事は大きく4つに分けられ、(1)クライアントのサポート(2)スピリチュアルケア(3)クライアントが新たな価値を見出すことを手助けすること(4)変革(死→生まれ変わるという捉え方に変える)を助けることが挙げられる。具体的にはがん患者の場合、自分ががんとなるとこれまで当たり前に感じていた多くのことを失い、そしてそれは神にも見放される嘆きや怒りとなって患者を精神的に追い込む。そうするとこのことが身体的にも悪影響を及ぼして入院が長引くこととなる。Chaplainはこのような負のスパイラルに対して患者の嘆きや怒りに耳を傾け、患者を知ることを通じて患者の中にもう一度神を呼び戻す手伝いをする。そうすると患者は自分とは何か、何か他に達成すべきことはないかと自分自身を見つめ直すことができ、抱えていた苦しみも少しずつ消化していけるというものである。

 研修では2人のchaplainにお会いし、ぞれぞれのお話をうかがった。1人目の方(キリスト教)にお会いしたとき、私は確かに患者の心のケアを担う役としてchaplainの重要性を感じたものの同じ存在を日本に当てはめて考えたときにきっとなじまないだろうなと感じていた。それは私がまだchaplainを神父さまのような神と人を結んでくれる存在と捉えてspiritualityが何かを分からずにいたためである。しかし、2人目のchaplain(浄土真宗)にお会いすると感じ方がガラッと変わった。その人は日本人のもつ(キリスト教とは異なった、比較的薄い)宗教観に沿ってスピリチュアルが何か、そしてスピリチュアルケアとはどういうものかを紹介してくださった。

 まずスピリチュアルとは、特定の宗教ではなく、自分より何か大きな存在があって、自分が健康で満たされているときにはその存在を感じることは少ないが、窮地に立ち祈らずにはいられない状況の時に神ではないその対象が存在する、という考えである。日本は宗教観がそれほど強くないが、スピリチュアルをこのように考えると日本人にもスピリチュアリティが存在すると考えられる。そして、窮地に立った患者に対しどのようにしてスピリチュアルケアをするかについては「注意深く聞くこと。ただし、自分のこれまでの人生で培った強い基盤をもって、動じることなく患者と向き合うこと。」である。そもそも、患者の抱える感情に向き合うとき、自分が同じ経験をしていない限りそれは頭で理解するしかなく、逆に経験しているがゆえに感情を分かりすぎてしまうと距離をとってしまうことがある。ここで重要なのが「強い基盤」である。強い基盤というのは、鋼のような強さではなく、大きく柔軟性を持った木のようなものであると理解している。それはまた注意深く聞くことを繰り返すことでも得られ、chaplainはその強い基盤で相手の抱えきれない感情を受け止め、患者がそれをゆっくり自分の中に消化していくことを手助けする。

 このことが分かったとき、私はようやくchaplainを理解できたように思う。そして、「聞く」ということは単に時間をかけたりすることではなく、患者の発する小さなサインを聞き逃さないということである。そういう意味で「注意深く」聞くこともポイントの一つである。

 日本にはまだchaplainを導入しているところは少なく、決して一般的なものではない。数が増えるにしてもまだ時間がかかる分野であると考える。そのような中で、医療に携わる医師、看護師さまざまな職種、家族が各々chaplainの要素を取り入れることが必要である。刻々と変わる患者さんの感情を逃がさないよう注意深く臨んでいきたいと考える。

 今回の研修でであった多くの先生方から講義を通してつらい決断においても決して逃げずに人と向き合うことを教えていただいた。同時に、日本の先生方のどんな状況でもあきらめず、患者の希望があればチャレンジする背中も思い出しながら講義を受けることができた。私はこのプログラムに参加して考えることによって自身の視野を広げることができたと確信している。そしてこの経験を踏まえて秋からの実習やこれからの人生にいかしていこうと強く思うと同時に、折に触れてこの経験を思い出し患者さんにどのように向き合うかを考えたいと思う。

 このような貴重な場を与えていただきました、山西先生、古山先生、服部先生、蒲生先生、Dr. McCormick、講義していただいた先生方、通訳のIzumi先生、引率してくださった中嶋先生、枚方療育園のスタッフの方々、全ての方に感謝申し上げます。

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