広報
兵庫医科大学医学会
海外研修報告

Short Course in Bioethics at the University of Washington

● 岸本 茉里さん (第5学年次)

w01_1.jpg このたび8日間の研修をさせてもらい、そのうちのUWでの4日間の講義と様々な施設の見学はとても内容の濃い、充実した時間となった。同学年の10人と古山先生、山西先生、服部先生、Dr. McCormick、UWの教授、関連施設のディレクターという顔ぶれの緊張感ある環境で、一緒の時間を過ごすことができた事はとても大切な思い出になり、これほどまで学生に学ばせてあげようという温かい環境に改めて感謝の気持ちでいっぱいである。これからもこの研修が続くように尽力される方々に対して、私も貢献したいという気持ちである。こういった機会を与えられなければ決して見る事のできなかったもの、聞くことのできなかった話、出会うことのできなかった人々、どれもかけがえのなく貴重なものだと感慨深い思いである。

 Seattleで見知ったほんの一部の内容であるが、私の目を通してどう映ったか、述べさせていただく。一番強く印象に残ったのが、アメリカと日本の文化レベルの大きな差、技術推進力の違いだった。それらは、Chaplain(患者のSpiritual care、サポート、新たな価値観を探すこと、転化に重きをおいて苦痛を取り除く職種)や終末期医療、遺伝子工学、臓器移植、子供の緩和医療、尊厳死どれにおいても感じられた。もちろん日本で聞いたことのある話や知識が役に立ったのだが、日本より文化レベルが高いと感じた要素はQOLの向上を重視して、CureとCareをできる点である。臨床のCaseにおいても、最先端工学での倫理観においても、どういう場面に直面することを予測できるか、どれだけ思慮深く対応できるかが、医師としての価値を決めるということを感じさせられた。正解の答えの出せない問題は多々あるが、他人がクライテリアやガイドラインを作ってくれるのに任せて待っていられないのだと、差し迫って感じた。

 さて、ここでは教室・Bioethics and HumanitiesのAssociated professorであるDr. Malia Fulletonのレクチャー、遺伝学の生命倫理の新旧についてのトピックを提示したい。倫理の進歩は科学の進歩よりも遅いスピードで後ろを追いかけているそうである。まさに、振り返れば解決されていない問題が山積みである。1つ目の話題は、将来起こりうる疾患の診断について。診断は、胎児(Fetus)と新生児(Newborn)、成人(Adult)の年齢区分で分けられる。Down症候群の診断となる21trisomyを発見するのにKaryotypeを調べる羊水検査はもはや古いと言われてショックであった。今ではNIPD(Noninvasive prenatal diagnosis)によって、母体の血液検査で胎児の細胞を調べ、DNAを調べることができる検査を行う。しかも妊娠の早期にできる検査である。ちなみに羊水検査で染色体の異常をしらべることができるのは16-17wである。妊娠の中止を選択する場合、日本の母体保護法で認められる22w未満ではあるが、16-17wでは陣痛誘発により経腟で胎児を堕ろさなければならず、母体のリスクが心配されるところである。また、アメリカでは州のそれぞれの制度によって、もって生まれた遺伝子の障害の数の多さにより対応される。まだ知られていない遺伝子障害もたくさんある。これには、対応できるものに限って州ごとに方針を決める必要がある。また、スクリーニングとして、生後1日で胎児のかかとから採血して、代謝異常などを早期発見できる場合もある。病気の存在を知らないことよりも、早く情報を集めて、早期治療や対策を練る方が良いというシンプルな考えが根底にある。生まれたばかりのかわいい子が病気だなんて知らない方が良いという発想はアメリカ人になかった。だが、これが治療法のない疾患であったらどうであろうか。この場合も知る方が良いと言える。私の意見は、医師とは科学者的であるし、病気の存在の有無に目をつぶって、目の前の患者にどんな問題があるのかは分からないだろう。それに、起こっている問題の解決に向けて、医科学の発展に努めるべき側の人間なのではないかと思う。患者にとってのCureをできるかぎりを尽くし、Careもできるのは医師の特徴である。

W01_5.jpg 次に、胎児、新生児の遺伝子診断に続いて、成人の遺伝子診断は、疾患の慢性化、癌の予防になる。家族歴があり遺伝している可能性が高い場合は、深刻になる前に治療できるようになる。こういった遺伝子検査は容易に受けられるようになっていて、アメリカでは民間企業の介入によるところもある。もし、遺伝検査を一人のキャラクターを知るようにスクリーニングでやるようになって、遺伝情報を患者さんが知ることになれば、その時医師はどういうことが求められるか。もし、遺伝情報が管理できないほどに広がれば、ある疾患のCarrierであることは、結婚するときや子供を作るときに差別化を生むか。良い遺伝子を選ぶことができるようになって、理想の子どもを求める親は普通か。これら考えられる問題は、みんなに考えてほしいことだと思う。

 遺伝子工学の進歩によって、早期診断が行えるようになると、予後や治療にも影響を与えるようになる。再発に対する抗がん剤治療後に治療効果を推定できたり、APL(Acute Promyelocytic Leukemia, 急性前骨髄球性白血病)に対するATRAによる治療が高成績であったり、患者に合わせたオーダーメイドの治療が行える。さらに福祉の適用にもなるのは、遺伝子の障害があって疾患が発症している場合などである。最近では、自閉症は遺伝子が原因で発症しているということが明らかになってきている。

 最後に、最も重視しておく必要があるのは、患者のプライバシーである。病気の遺伝子をもった人は保険の適用にならないといったことがないように、差別化に対するセーフティーネットを準備している。2008年アメリカでは差別化してはならないという内容の法律が定められた。GINA(Genetic information nondiscrimination act )である。情報が溢れてしまわないように、守っておくべきものをはっきりさせておくのは良いことだと思う。

 まとめると、遺伝学は早期発見、早期治療を可能にし、将来の見通しを立てることができ、疾患管理を可能にしつつある。急速な進歩で気を付けたいのは“だれが、いつ何の目的で科学を発展させるかを、自分自身が倫理の観点から立ち止まって考えられるか”だと思う。どこかで考えるのをやめてしまわないことが、生命倫理において一番大事である。

 最後に、今回このような貴重な機会を与えて下さった枚方療育園の山西先生、古山先生、ご引率下さった服部先生、学生の言葉を最後まで温かく聞いてくださったDr. McCormick、ならびに関係者各位の方々に厚く御礼申し上げたい。本当にありがとうございました。たくさん学ばせていただいたことを将来に活かせるよう日々励んでいきたいと思います。これからもよろしくお願い申し上げます。

兵庫医科大学 〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1番1号 TEL:0798-45-6111 (代)

Copyright(c) Hyogo College Of Medicine.All Rights Reserved.