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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

シアトル研修旅行で得たこと

● 李 侑香さん (第5学年次)

w10_1.jpg 8月13日~20日にシアトル研修旅行に参加させていただきました。シアトルの空港に到着した13日の晩に、初めてMcCormick先生にお会いしました。とても優しそうな先生で、明後日からの講義がとても楽しみでした。翌日14日の観光の後の晩のWelcome Partyでワシントン大学の医学生と話をしました。アメリカでは医学生は1日8時間も勉強していると聞き、私たちももっと頑張るべきだと思いました。

 15日から4日間、生命倫理の授業が始まりました。初日は、アメリカでの生命倫理の始まりの話、遺伝学の倫理的問題の話、未熟児の話、集中治療室(ICU)の話、移植についての話を聞きました。

 遺伝学の話では、アメリカでは新生児の時点で、いくつかの病気と関係する遺伝子を調べるために、遺伝子を用いたスクリーニングを行うということを初めて知りました。それはよっぽど親が反対しない限り行い、また、そのスクリーニングを行っていることをみんな知らないことを知って驚きました。ヒトゲノムの解読は自分でするかしないか選べるのに、新生児スクリーニングは半強制的に行われるので、それは自己決定権を奪われていると思いました。

 未熟児の話では、医学の発達でかなり未熟な子供でも助かるようになってきましたが、コストや生存率などを考えると、すべての未熟児に対して助けることにも問題が出てくるという話を聞きました。また、サーファクタント注入などの未熟児の医学的治療だけでなく、ストレスを減らす環境を整備したり、赤ちゃんを親の肌と触れさすのも安心感がうまれて良いということも知りました。

 集中治療室(ICU)の話では、アメリカではICUで無くなる人が他国より多いことを知りました。驚いたことは、患者の重症度とは関係なく、ICU専門医が患者の救命器をはずすかどうかを決めるということです。患者やその家族の希望を無視して医師が決めてもいいのかということに疑問を抱きました。

 16日はまず、ワシントン大学の医学部のついての話を聞いた後、がんセンターに移動して、チャプリンという職種についての話、血液がんの研究の話を聞いた後、そこの施設見学をしました。それから、緩和ケアの話、13-18トリソミーの話を聞きました。

 ワシントン大学医学部の話で、日本と異なるところは、4年の最初に臨床研修したい科を選んでそこに1カ月実習をするが、そこではレジデント(日本でいう研修医)くらいのパフォーマンスを求められ、2~3人の患者を担当するところです。また、日本のように全国一斉の国家試験などはなく、州ごとに試験があって、ライセンスを取得するところも違っていました。

W10_4.jpg チャプリンの話では、チャプリン制度のことについて詳しく学ぶことができました。チャプリンというのは、重症患者、家族に対して感情、精神、スピリチュアル的な話を聞いたり支援したりする職種のことです。精神科医でも心理カウンセラーでもありません。宗教に関係しているように思われますが、宗教とは無関係に仕事をします(無宗教の人でも助けます)。チャプリンになるには、一般大学を4年間行ってから3~4年間の神学と1年間の専門臨床学(話し方、人間関係などを学ぶ)のトレーニングを受けなくてはいけなく、また、特定の宗教に入っていなければいけなく、そこからの推薦も必要です。チャプリンの行うことは、(1)サポートする(見守る)、(2)スピリチュアルな苦難があったときにサポートする、(3)価値観や生き方を明確にする、(4)変化(人生の変革)の準備を支援する、の4つです。(1)については、患者にある宗教や考え方を押し付けたりせず、本人の考え方をサポートすることです。本人を患者としてではなく、一人の人間としてみてその人にとって何が大切か、どんな環境にいるのかを理解することが重要です。(2)のスピリチュアルな苦難というのは、トランスパーソナル(自分が置いていかれた世の中に憤りを感じる気持ち)、インターパーソナル(グループ、集団、宗教にかかわっている人たちへの怒りや不満を感じること)、イントラパーソナル(自分の存在、命、人生の意味は何だったのか、どういうことで今後喜べるのかというような、内面的な心の戦いのこと)の3つの苦痛を何とか乗り越えるようにすることです。(3)については、今までの良かったことをビデオ、文章にして明確にし、家族に伝えたりして人生を一緒に振り返ることです。(4)については、どうすればいいのか行きづまっている人の人生を見直すことです。また、患者だけではなくチャプリンは医療スタッフ自身の仕事、個人的、家族の悩みや心配なども聞いて助けたりします。このようなチャプリン制度を持っていることは大変素晴らしいことだと思いました。最近スピリチュアルケアも大切になってきましたが、日本ではこのような制度は発達していないため、代わりに医師、臨床心理士などがスピリチュアルケアを行っています。しかし、専門的な教育を受けていないため、十分なケアがされていません。だからぜひ、日本にもチャプリン制度を受け入れたらどうかと思いました。日本でもチャプリンは少数いますが、キリスト教の病院にしかいなく、宗教と結び付くイメージが強いため、なかなか浸透していくのが難しいと思います。よって日本に合うようにある程度変化させて今後取り入れていくべきだと思いました。

 血液がんの研究の話については、血液をあるフィルターに通して、そこからがん細胞を隔離し、取り出す研究をしているということを聞きました。採取したがん細胞からどういう流れで血液に入ったのかを調べることで、血液転移を防ぐようにするのが研究の目的であり、リスクが高くて血液転移しにくいがんである、膵臓がんを用いて研究されています。その研究が上手くいき、今後の医療に生かすことが出来ればよいなと思いました。

 緩和ケアの話では、アメリカではホスピスに入る前で、患者が良くなるか悪くなるか分からない状態から、緩和ケアが必要と考えて、実際その段階からケアを行っていることを初めて知りました。もし悪くなったらどうなるか、どういったケアが必要か、などということを、状態が悪くなる前から話し合いながら診ることは大切なので、日本もそのように最初から診るべきだと思いました。

 13-18トリソミーの話については、アメリカでは13トリソミーの胎児は蘇生をしなくてよいというガイドラインがあり、そのため母親に赤ちゃんを出産しないようにある程度の圧力をかけていることを知って驚きました。また、13-18トリソミーを出産した理由は宗教的な理由よりも、子供を愛している、後悔したくないといった理由の方が多いことにも感銘を受けました。また、アメリカでは13-18トリソミーの理由で中絶できるが日本ではできない(日本は母体の理由以外は中絶できない)という、制度の違いも初めて知りました。

W10_3.jpg 17日はHarborview Medical Centerでチャプリンによる、スピリチュアリティの話とセンターの見学の後、世界初の腎透析が行われた場所であるKidney Centerでの施設の見学と、腎疾患患者に対する倫理の話を聞き、それからワシントン大学の見学をしました。

 スピリチュアリティの話についてはみんなで意見を言いながら話を聞けたので良かったです。

 Kidney Centerでは、家庭用血液透析機械という、日本で見たことのない機械を見ることができました。病院の血液透析機械よりも少し小さめですが、自宅で寝ながらでもできるので、透析のために通院する必要はありません。アメリカではすでに実用化されており、このセンターでは全米よりも普及していました。しかし、まだまだアメリカでも導入が少ないのでこれからももっと普及していくべきであるし、日本でも早く導入すべきだと思いました。また、自宅で透析を行う人に対する教育がしっかりなされており、そのためだけの専用の専門の部屋があったことにも驚きました。

 腎疾患患者に対する倫理の話では、アメリカでは腎疾患(透析)は政府が費用を負担する病気であるので、そのため、政府が患者に対して十分なサービスを提供すべきだと思っている人が多く、わがままな人がたくさんいるということを知りました。日本でも透析は政府が費用を負担しますが、アメリカほどわがままを言う人はいないのでその違いに驚きました。

 ワシントン大学の見学については、敷地がかなり広く、テニスコートやラグビー場、アリーナホール、ゴルフ場、公園などいろんな設備があり、敷地を車で回っても時間がかかるくらいでした。日本では考えられないくらいの規模であったので圧倒されました。図書館も広くて、教会のようなきれいな建物で素敵でした。

 18日は、ダウン症の話、尊厳死の話、緩和ケアの話、終末期を迎える患者の臨床担当の人の話を聞きました。

 ダウン症の話については、とても学ぶことが多かったです。普通の妊娠経過だったが出産後ダウン症だとわかり、さらに腸閉塞も患っていたので、すぐに手術しなければ亡くなってしまうような状況の時に、親は手術しないことを選びましたが、その選択は正しかったのかという話でした。その時は患者の意見を尊重しましたが、今は法律があるので医師の判断で子供を助けることになります。この実際に起こった事例から、もし自分が親の立場で自由に決定できるならどうしていたかということを考えさせられました。

 尊厳死の話では、去年ワシントン尊厳死法が可決されてすでに施行されており、尊厳死を行った人がいることを知りました。尊厳死についてですが、対象者は判断がしっかりと出来る人で、終末期を迎える人でないといけません。尊厳死をするには、患者は尊厳死を希望することを医者にまず口頭で伝え、次に文書で伝えて、さらに15日の期間をおいてから再び医者に口頭で伝えると、医者から薬を処方されます。その薬は飲むと死亡する薬です。薬は飲みたい時に飲めば良く、気持ちが変わったら飲まなくてもよいです。薬は自分で飲まなければいけなく、薬を飲むときは葬儀の手続きを事前にしなければいけなかったり、薬は家庭で飲まなければいけないなどの細かい規定があります。これを実行した医者は法律により守られているので逮捕されることはありません。処方された人のうちの6割の人が、その薬を飲んで尊厳死を実行していたのを知って、どれだけ尊厳死が必要とされていたのかを実感しました。また、尊厳死を行った理由は、自分で死を選ぶという自律性が失われると思ったからという理由が多く、次に、人生はもう満足できないと思ったから、尊厳が奪われると思ったから、の順に多かったことにも驚きました。私は尊厳死については反対ではありませんが、自分で死を選ぶのはある意味自殺と同じかもしれないと思いました。法律では、尊厳死で死亡した人は尊厳死をしないで死亡した場合の病名となり、自殺となりません。しかし、死亡する時期を選ぶ権利があるという意味で、自殺に近いものであると思います。しかし、尊厳死を実行できる人は終末期を迎えている人対象なので、普通の自殺とは異なり、自分のための自殺で、完全な自殺ではないので私は尊厳死が悪いことではないと思います。

W10_2.jpg すべての講義が終わった後にFarewell Partyを行い、お世話になった先生方に感謝の気持ちを込めてスピーチをし、最後のひと時を過ごしました。その時に、McCormick先生から修了証を頂きました。とても嬉しかったです。

 今回のシアトル研修旅行で、日本にいるだけでは十分に学ぶことができなかった生命倫理を学ぶことができて本当に良かったです。ここで学んだことを出来るだけ多くの人に伝えて一緒に考えたり、今や将来に生かしながら頑張っていきたいと思います。

 最後にこのような機会を与えてくださった枚方療育園の山西先生や古山先生、野口先生、McCormick先生やその他の皆さんに感謝しております。本当にありがとうございました。

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