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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

ワシントン大学研修旅行を終えて

● 福井 美穂さん (第5学年次)

W05_1.jpg この度、2011年8月13日から8月20日までのシアトル、ワシントン大学での研修に参加させていただいたので、報告させていただきます。

 ワシントン大学における4日間の生命倫理学のセミナーで私たちは、アメリカにおける生命倫理の始まり、遺伝学と倫理、臓器移植、胎児診断、新生児医療、緩和ケア、Chaplain制度などたくさんの興味深いテーマについてのレクチャーを受講し、がん研究センター、腎センター、こども病院、急性期病院など様々な施設を見学しました。この研修ではほとんどの講義で、テーマについてのレクチャーの際、自由に質問をしたり、意見を述べることができる形式で行われたため、どのレクチャーも自然と積極的に考え、少しでも多くのことを学びたいという気持ちの湧くものでした。そして、レクチャーにおいて述べた意見や質問に対し、各分野に高い専門性をもつ先生方が丁寧に答えてくださったこと、この夏、このような環境で学習する機会を与えていただけたことは、本当に喜ばしく思っており、感謝しております。

 ここからは、私がこのセミナーで学んだことのうち、強く印象に残っているいくつかのテーマについて報告をさせていただきたいと思います。まず私たちは、Dr. McCormickによる最初のレクチャー“Birth of Bioethics in USA”においてBioethicsという概念は、人工透析器の開発に伴い生じたものであり、限られた人工透析器を誰に用いるべきかということを判断するためのものであったということを知りました。このセミナーに参加する以前、私は生命倫理というと尊厳死や脳死など人の死について扱う学問というイメージが強く、DNA の発見以来急速に進歩した分野である遺伝学、その技術の医療への導入と生命倫理との関係などは、生命倫理における新しい分野であろうと思っておりました。しかし、Bioethicsが人工透析器を誰に用いるべきかを決定するために発達した概念であるという事実は、アメリカでBioethicsという概念が発達した時からすでに、生命倫理は新しい医療技術をどのように人に適応すべきか、ということに取り組む分野であったことに気づくことができました。そして、これから医療技術はますます急速に発展するであろうと思われる現代において、常に医療技術とその適用について、その用い方が正しいのかを問い、適切に用いることができるよう、全ての医療関係者が努力しなければならない分野であることを強く認識しました。

W05_2.jpg 次に、臓器移植のレクチャーで私が驚いた事実について、書かせていただきます。臓器移植のレクチャーはUNOS(United Network for Organ Sharing, 全米臓器配分機関)という組織で重要な働きをしているDr. Jorge Reyesによって行われたのですが、その中で、外国人の臓器移植についての意見を先生に伺いました。すると、「UNOSでは、以前、外国人への移植は5%までというルールがあったが、その制限は廃止され、現在は外国人であってもリストに載れば、その他の制限はなく移植を受けられる制度に変更されたということを知ることができた。」ということ、また「ヨーロッパでは国内優先というルールがまだあるが、これは倫理的ではないと考える。」と答えてくださいました。また、現在UNOSの移植制度をまだ制度が整っていない国に拡げる活動もされていることを話してくださいました。外国人の臓器移植については、UNOSとヨーロッパでも見解が異なるように、個人レベルにおいても様々な考え方があると思いますが、自国の移植は自国で行うべきであるといった意見も聞いたことがあり、先生はどのような考えを持っているのかとても興味深かったです。そして、私自身は、技術や制度、その他どのような問題であれ、現時点で自国で臓器移植を受けることが難しい人がいるのなら、世界中の国々が、臓器そのものや技術を協力して提供しあう関係や組織を作り、さらに現時点での移植が難しい国についても各国が協力してその問題解決に取り組めば、より多くの患者が移植に利益を得られるようになるのではないかと考えていたため、先生のような考えをもち、既にその考えに基づいた制度変更を行い、拡大するための活動を行っていると聞き、驚いたと同時にとてもうれしく感じました。

 胎児診断と中絶に関するレクチャーも最も印象に残っているレクチャーの一つです。それは、日本とアメリカの間にある、考え方の違いというもの強く感じ、また共通性も感じられるような論文がそのレクチャーで用いられたからです。13トリソミーと18トリソミーの子供を妊娠した親に対するいくつかのアンケートをまとめ、医師が中絶したほうがいいと考える姿勢をもっているか、親は最後まで産みたいと思うかなどを調査する目的の論文ですが、日本と異なると感じた点は、著者らの推測に対してで、「母親が中絶を選択しなかった理由として、充分な教育を受けていないこと、つまり教育を受けていないが故13トリソミーや18トリソミーの症状を理解していなかったので出産を選んだという結果を予測し、学歴についての質問を用意した」とのコメントについてです。日本でも出生前診断については取り組まなければならない様々な課題があり、この論文の著者らが行った様な調査が必要だと思いますが、日本では、「充分な教育を受けていないことが母親が中絶を選択しなかった理由である」という考えはあまり一般的ではないのではないだろうか、と思います。私は今までそのような推測を日本できいたことがないので、この考え方には少し驚きを覚えました。ただし、結果、妊娠の継続を選んだ母親のうち充分な教育を受けている人の割合は多く著者らの予想に反していたと説明がありました。また、「医師から中絶を勧めるような圧力を感じたか」という質問に半数以上の親が「感じた」と回答していることから、アメリカでは胎児の健康上の理由で医師が中絶を勧めるということにも非常に驚きました。しかし、妊娠の継続を選んだ理由としては、宗教的な理由を越えて、子供を愛しているから、という理由が最も多く、この結果は、日本で同様のアンケートを行っても同じ結果が得られるのではないかと私は予想します。

W05_3.jpg この他にも、日本ではあまりなじみのない、患者のspiritual careを行うchaplainという仕事についても学ぶ機会があり、これについて日本においても同様の役割をもつ人が必要だと思いますが、chaplainという制度は宗教に基づいて成り立っている制度なのでそのまま日本に取り入れることは難しいであろうということや、制度の日本に合ったところをうまく取り入れればよいだろうということ、たくさんの病院にその制度を拡げようと思うとしっかりした教育を行う組織が必要となるのではないかなど、先生や友人とディスカッションすることができたことも、この研修に参加しなければ体験することができなかった貴重な経験のひとつです。

 最後になりましたが、このような素晴らしい経験をさせてくださった山西先生、引率してくださった古山先生、野口先生、蒲生先生、蒲生夫人、Dr. McCormickをはじめとするワシントン大学の先生方、携わってくださった全ての方々に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

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