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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

中国汕頭での研修を終えて

● 志村 雄飛さん (第4学年次)

 3月15日から22日までの汕頭大学への留学は、新たな知識を得ると共に、自分の視野の狭さを改めて見直す事ができた貴重な機会となりました。現地における日程は下記の通りでした。

1日目:汕頭大学の先生方・職員の方達との交流会
2日目:汕頭大学訪問、臨床技能センターの見学
3日目:僻地医療の見学
4日目:潮州観光、扶持点(眼科病院)への訪問、八角土桜観光
5日目:訪問診療への同行、医学生との討論会
6日目:口唇口蓋裂センターの見学、感染症科の見学、精神科病院への訪問
7日目:産婦人科・救急の見学

 初日の交流会で、程先生に「日本の医療と中国の医療の何が似ていて何が違うのかを見て欲しい。」と言われ、その点に注意を傾けながら様々な施設を見学させて頂きました。

汕頭大学は、李嘉誠という人物の長期的な寄付により財政が成り立っており、教育改革に熱心な大学です。大学の教育だけでなく、最先端の技術を地域に足を運び伝えるという活動も行っており、これは李嘉誠基金の重要な指針の1つになっています。

 中国の医学部は5年制、7年制、8年制に分かれており、入学試験での成績により振り分けられます(成績が上位の者は8年制のコースに進みます)。5年制では学士、7年制では修士、8年制では博士の学位が得られます。この制度が存在する理由は、中国の就職率と関係があります。中国では医学部を卒業しても必ず就職できるとは限らず、競争がとても激しいため、修士や博士の学位を持っていると自分の行きたい病院に行ける可能性が高まるそうです。実際に汕頭大学の学生達と交流して感じた事ですが、彼らは競争意識が非常に高く、休日も勉強に追われなかなか自由な時間が無いと言っていました。中国では医療に関する技能を競う大会が毎年開催されており、この制度も競争意識を高める為に有効であると思いました。

 また、先生方と話をしている時に感じた事ですが、中国の教育者の方達は常に世界を視野に入れていました。初日の交流会の時にある先生が、「中国の経済は上り調子だったが、最近は成長速度が緩やかになってきている。おそらく世界経済の成長も一旦緩やかになるのではないか。」という事をおっしゃっていました。また汕頭大学は世界中の有名な大学との交流が盛んで、教育の為に海外から著名な先生を呼んでくる事もあるそうです。世界の中の中国、という自覚があり、自分達の国が世界にどういう影響を与えるかを常に意識しているのではないでしょうか。

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汕頭大学の訪問(2日目)

 2日目の臨床技能センターの見学で感じたのは、一見ただの人形が並んでいるように見えて、実は臨床現場に極めて近い環境を再現しているという事でした。例えば心音を聞き分ける訓練をするために、ただ音を流すのではなく人形の体に聴診器を当てて初めて心音が聞こえるようにしていました。また小児の人形や気管挿管の練習のための人形など、状況に応じて細かい訓練ができる環境が整備されていました。特に驚いたのは分娩を想定した妊婦の人形で、時間を設定すると自動的に胎児が出てくるという極めて臨床に近い設備があった事です。学生の外科実習の様子も見学させて頂いたのですが、人形の縫合時に出血が観察され、臨床現場を強く意識しているのが分かりました。

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僻地医療の見学(3日目)

 3日目には僻地の医療を見学させて頂きましたが、この体験は今回の滞在における最も印象的なものとなりました。まず目についたのは、衛生状態の悪さでした。水道設備が不十分で、家屋の密閉性はほとんどありません。部屋は薄暗く、電球が無い家が多く見られました。教育と医療援助を同時に行うという李嘉誠基金の方針に沿って、汕頭大学の医学生の方達と健康診断の手伝いをさせて頂きましたが、そこで驚いたのは、汕頭大学の医学生が、地域の人達の問診を次々に行い血圧測定など基本的な検査を行う、そのスピードでした。汕頭大学では年に1~2回こういった訓練を行うそうですが、医療が必要とされる現場を意識する事がいかに重要かを思い知らされました。知識は使えるようになって初めて役に立つのだと、当たり前の事実に今更ながら気付かされました。興味深かったのは、汕頭の学生達は、医療の提供だけでなく、人々の生活に役立つ物作りも行っているという事でした。例えば人力車にブレーキを取り付けたり、高齢者が立ち上がり易い杖を考案したりするそうです。他人の役に立つ為に何をすれば良いかを自分で考える能力を身につけるために、教育の一環として行っているとの説明を受けました。

 僻地の様々な家を見学させて頂き、今回の留学の中で最も重要な事を学びました。それは、都会と僻地では生活水準が全く違い、さらに僻地の中でも家によって生活水準が全く違うという事実です。冒頭に書いた様に、今回の留学では医療という点において日本と中国の違いは何かを注意しながら様々な施設を見学させて頂きましたが、大きな違いを理解する為には細かい違いに注意しなければならないと思いました。都会の大きな病院では医療がどんどん進歩していく中で、中国の僻地では貧しい為に医療費が払えず骨折の治療さえできない人々がいるという事を見過ごしてはならないし、必要最低限の医療さえ受けられない人達の為に自分は何ができるだろうと考える事は、医療に携わる私にとって重要な課題だと感じました。

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放射線科の見学(7日目)

 4日目から7日目までは眼科病院、ホスピス、口唇口蓋裂センター、精神科病院、産婦人科など様々な施設を見学させて頂きましたが、強く印象に残ったのは、ホスピス見学の後に行われた訪問診察でした。ガンを抱える患者を訪問した際に、治療費が払えず入院できない事、経口薬による治療しか行っていない事、痛みが絶えず睡眠が妨げられている事を知りました。僻地と比べて一見生活水準が高そうに見える家でも、やはりこのような問題に直面していました。その様な状況の中で、1日に何軒もの家を訪問し医療を施すホスピスのスタッフの方達を見て、自分はこの姿勢を真似しなければならないと思いました。彼らは、中国の医療の問題点は何か、その問題を解決する為にはどうすれば良いかを考えながら、今目の前にいる患者の為に何ができるかを考え、実践していました。シンプルな事ですが、大きな視野と細かい洞察力があって初めてできる事だと思いました。李嘉誠という人物が明確な方針を示し、その意志を理解して働いているから自分の役割を認識できるのではないでしょうか。

 今回の留学を通して、医療者としてふさわしい姿勢を現場から学ぶ事ができました。自分の目的を明確にして勉強する事の必要性も感じました。程先生、陶先生、黄先生、刘先生、汕頭大学国際交流センターの課長さん、李嘉誠基金会、そして波田副理事長先生を初め多くの方達のご協力のおかげでこの様な貴重な経験をさせて頂けたことを深く感謝しております。

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