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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

汕頭大学医学院での研修を終えて (2011.3.17~3.24)

● 三浦 耕司さん (第1学年次)

 3月17日から24日までの間、中国汕頭大学医学院に留学させていただきました。留学前、中国の医療についてほとんど無知に等しい状態でしたが、今回の留学を通して現地医師に疑問点を直接質問することができ、多くのことを学ぶことができました。

日程は

1日目:汕頭大学医学院と李嘉誠基金会のプロジェクトの紹介
2日目:臨床技能センター+汕頭大学訪問
3日目:潮州・八角土楼観光+ヤオピン県三洋病院(眼科)訪問
4日目:僻地医療(西山小学校)見学
5日目:ホスピス(在宅医療)+現地学生とディスカッション
6日目:口唇・口蓋裂治療センター+感染症科+Eye Center+精神科見学
7日目:第一病院紹介+産婦人科+救急見学

というもので、非常に充実していました。

 中国に到着し、まず感じたことは大気汚染の深刻さでした。通勤ラッシュ時には普通に呼吸するのも躊躇するほど深刻であるにもかかわらず町で見かける人は大人から子供まで誰もマスクすらしていなかったので衝撃を受けました。呼吸器の疾患は多いのですかと質問すると小児科での喘息・肺炎が経済成長に伴い急増しているとのことですが、その対策や予防にはまだ手が回っていないようでした。到着した日の夜に受けた汕頭大学と李嘉誠基金の基本情報についての説明で、汕頭大学では医学部のコースが学士の5年・修士の7年コースがあり、特に修士コースの優秀者には、全て英語で教育を受けさせるクラスを設置することで米国と同水準の医師の育成を目指していたり特別授業で充実した実習施設・器具を使用できたりするなど、他の学生と差別化が行われていました。全ての学生が同じ教育を受けるのとは異なる、学生間の能力差を強調した教育方針に日本との違いを感じました。

 2日目は実際に大学内を見学し、実習設備の充実や大学の規模の大きさに驚きました。

僻地医療(西山小学校)
僻地医療(西山小学校)

 3日目は霧が濃く曲がりくねった山道を数時間走り抜けた所にあるヤオピン県の、眼科病院を訪問しました。この眼科病院は李嘉誠基金会の「農民たちに基本的な医療の提供をしよう」という構想に基づき、援助・技術提供を受けたことで、成長した病院でした。周辺人口100万人をカバーしているとのことでしたが、逆に言えば周囲に他の病院が無いとも言え、専門は眼科であっても、実際には出産や、虫垂炎・胃の摘出手術なども行い、去年この病院で誕生した子供は1080人もいたそうです。都市から遠く離れ、交通事情もよくない僻地ではたとえ専門外であっても専門領域を超えた膨大な知識が必要だと感じました。また、院長との懇談では、地方の病院では医療費が安いため、内障の手術であれば大病院の10~20%の費用で手術を受けることができるということを伺いました。もし地方で手術ができるようになれば都会に行く交通費や時間も含めると患者にかける負担を大きく軽減することができるため、地方で医療を支援することが患者に費用など多くの面でメリットがあることを知りました。

 4日目は大学から2時間ほど離れた村での診療を見学しました。臨時診療所となった小学校には多くの村人が集まってきましたが、汕頭大学の医学生が実際に患者の血圧を図るなどをして、患者から頼られている姿を目にしたことが良い刺激となりました。この診療では、診察を受けに来た患者に30項目に及ぶ検査を実施し、病気の発見や予防をしていました。実際の治療では、内科や眼科がありましたが最も興味深かったのは日本ではあまり見ることのできない漢方医による実践的な吸引治療やマッサージも見学することができ、内服薬だけではない漢方を実際に見学することができました。

 5日目の在宅医療見学では車で病院から近くに住んでいる患者のお宅や、かなり離れたところに住んでいる患者まで医師や看護師と訪問しましたが、その際患者のプライバシーを守るため白衣の着用はしていませんでした。日本との違いは到着までにもありました。都市部では住宅が密集し、入り乱れていて、その一方で田舎では目的のお宅への目標が余りに少ないためどちらにしても住所はほとんど意味を持たず、訪問の際には患者の家族が大きな道路や発見可能な位置まで車を誘導しに来ていました。実際の治療では処方する治療薬の決定や経過観察、アヘンを主成分とする薬の取り扱い方を指導しますが、患者からの満足度が非常に高いと聞いていた理由が同行することで見えてきました。実際にトンプという村のお宅に伺った時には、患者から治療の相談だけでなく、家庭の事情で長い間会っていない娘とどうにかあわせてほしいという相談を受けていました。そして、それは珍しいことではなく、多くの場合実際に解決するそうです。患者の抱える病気の治療のみならず、家庭や心の悩みまでも実際に解決することで患者のQOLを向上させるという全人的医療の実践が患者からの信頼を得ているのだと感じました。午後のディスカッションでは患者からお礼に何かを差し出されたときどうするかという話題がでました。そのなかで、村に行ったときにお金が無いから、かわりに卵をくれた患者を次に訪問したとき中国では田舎にパンが無いからパンを持って行ってあげると非常に喜んでくれ、信頼関係を気づくことができたというお話が興味深かったです。

 6日目の精神科見学では経済の急成長により、生活リズムの変化などから精神に異常をきたす人が急増していることを知りました。現在ベッド数は210床あるものの、他の科と同じようにすでに満床のため新しい病棟の建設が始まっていました。また、新しい精神病棟にはVIP専用の高級病室も建設されていました。口唇口蓋裂治療センターでの見学や治療法の説明は個人的に一番興味がある分野だっただけに、非常に感動しました。そして、この疾患には程度によって世界的に評価基準が定められているものの、中国では発生率が高く、独自の評価基準にて診断していたり専門の科を設置したりしていました。特に口輪筋が短すぎた場合、上顎骨を破壊しない治療法の導入や口腔外科との連携が興味深かったです。また、他の疾患と違い、治療は手術から一貫して行わなければならず、病院に何度も来られない患者のアフターケアのため、1000キロも離れた農村に出向くこともあるということを知り、治療以外の部分での大変さも知りました。今後は手術後の発声訓練にも力を入れるそうです。

 7日目のEye Centerでは、白内障などの治療を中国内陸で行うために列車を改造した治療施設が運用されていてすでに2万人が手術を受けたと聞き驚きました。そして視力が回復すれば自立した生活が営め、患者だけでなくその家族のQOLも向上するので、Eye Centerの役割は非常に大きいということを学びました。産科では実際に帝王切開での出産にたち合わせていただくことができ感動しました。

 一週間を通してこのほかにも、中国では2000年まで医師国家試験が無かったことや医学部の人気も他の学部と変わらず、卒業生の30%が医療と関係ない職につくということ。政府が医療費の70%を都市部につぎ込むため、人口の70%が暮らしている田舎に30%しか医療費が使われていないためにおこる地方の医療の現状。田舎の人の実際の暮らしぶりなどは現地に行ってみないと知ることができないことであったので非常に良い経験になり、いろんなことを勉強させていただきました。特に李嘉誠基金会が支援するのは、患者の自立に直結する眼科、治療により患者に新たな人生をあたえる口唇口蓋裂治療、終末期の患者に対するホスピスなど、患者のQOL向上に直接貢献するプロジェクトで、実際に大きな成果が出ているだけにすごいと思いました。また、地方の病院を無料化して金銭的に支援し続けるというような支援形態をとるのではなく、医師に対し基本的医療設備を寄付・技術訓練をして、低額で一定の診療費を取らせる。そうすることで病院の運営をするとともにハイレベルの医療を維持・提供することが可能となり、ハイレベルな医療を求めて患者の来院数自体が増え、蓄積した利益でさらなる医療設備の向上をさせるという支援形態を完成させていたので、単なるその場限りの支援ではない本当の支援が実践されていると感じました。

 今回の留学で日本とはまったく異なる中国の医療の難しさ、問題点、そして進化し続けている医療現場を目にし、刺激をうけました。これからはさらに世界の医療に目を向け、今回学んだことを将来日本の医療にいかせるよう勉学に励みたいと思いました。最後になりましたが現地で指導してくださった先生方、本当にありがとうございました。

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