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兵庫医科大学医学会
海外研修報告

汕頭大学医学院での研修を終えて (2011.3.17~3.24)

● 中村 昌平さん (第1学年次)

 2011年3月17日から24日まで汕頭大学医学院で研修をさせていただきました。この1週間の研修は本当に有意義なものであったと帰国した今も感じています。今回のこの経験を日にちを追って、日記形式で報告をさせていただきます。

3月17日(木):
  上海を経由して夕方に汕頭に着いた。劉先生や程先生に迎えていただき、まずマンションまで案内していただいたが、部屋はとても綺麗で広い環境だった。その後財団の顧問である羅先生や副院長の黄先生も交えて夕食をいただいた。夕食後、大学のほうに移動し、パワーポイントによる医学院の案内、中国の医学部の制度、李嘉誠基金の内容などを羅先生に説明していただいた。約1時間程度で、説明後に日本人学生の質問なども受けていただいた。パワーポイントの内容は以下のとおりである。

 汕頭大学は公立の大学であるが、他の公立大学と異なる点は“李嘉誠”という方が経済的に大きな支援(36億香港ドルを寄付)をしているということだ。李嘉誠氏は世界的な“富豪”であり、2008年の世界ランキングでは10位ほどの方である。貧しい家に生まれ、結核で父親を亡くした。不動産や株式で大きな成功をおさめた。特に医学と教育を重視されているようだ。また、今回の東日本大地震でも8000万円ほどの寄付をされている。2000年より始まった中国の医師国家試験の合格率の全国ランキングは8位であり、卒業生の就職率は9割を超えている(中国全体では7割程度の就職率である)。また、医学部には5年制(150名)と7年制(150名)があり、後者は修士課程までの学位が取得できる。7年制には英語による授業もあり、将来米国レベルの医師を見据えた教育を行っている。医療技術だけでなく、教養や人間性の涵養にも力を入れている。日本をはじめ、米国、カナダなどいろいろな国との交流もある。ECE(早期臨床実習)もとりいれている。医学部の附属病院が5つ、関連病院が3つある。李嘉誠基金会の四つの特徴として、①ホスピス:貧しい方で、ガンの終末期患者を対象に苦痛を和らげることを目的としている。車での往診などもおこなっており、その主な内容は鎮痛、心理的サポートである。②医療扶助:田舎の医療の充実。③重生行劫:口蓋裂の治療④朕心是潮流:眼科の治療。白内障、緑内障が挙げられる。汕頭大学医学院の全体的な内容について話して頂いた。

3月18日(金):
  午前は教育設備の案内を受けた。日本でのOSCEのような試験も中国にもあるようで、診察技術の向上のために模擬の人形が多くあった。設備が充実していると感じた。午後は汕頭の案内を先生方にしていただいた。

3月19日(土):

眼科病院
眼科病院

 汕頭から北へ30kmほど離れた、潮州という都市に観光に出かけた。移動中に気付いたことだが、土が赤色をしていた。赤い土はアルミニウムなどの金属元素が多く、土地がやせている。そのため、この辺りは非常に茶畑が多く、烏龍茶などが名品である。午前中は潮州の寺院や陶磁器の博物館の見学をさせていただいた。午後からは眼科病院(三陽病院とも)の見学をさせていただいた。その建物の周辺は少し田舎であったが、非常にきれいな設備や手術室も清潔感があった。ここではお金のない貧しい人にも医療が受けられるように配慮がなされている。眼科病院では主に白内障及び緑内障の手術を行なっている。

3月20日(日):
  朝から大型の観光バスに乗り、汕頭大学医学院の学生とともに農村の検診の見学に行った。汕頭大学医学院の学生たちはボランティアとして年に2回ほど農村の検診の手伝いに行くそうだ。2時間ほどで現地の小学校に到着した。こちらの国でいう「田舎」は日本でいう田舎とは比べものにならないくらいのレベルであり、水道やガスなども通っていないほどである。小学校の教室を診察室として使われており、内科、外科、眼科、小児科、漢方に分かれており、全体で7人の医師が検診に従事している。学生ボランティアは2つのチームに分かれる。ひとつは宣伝チームであり、住民に対する病気や予防法の啓発活動を行う。もうひとつは診察の補助をしたり、バイタルサイン測定などをするチームである。漢方医の先生の診察を見学させて頂いているときに、「腰痛はないか?」と尋ねられ、私もその治療を受けてみることになった。漢方医の先生のお話では、「氣」というものが大事であり、孔子の教え(儒教)と漢方は密接な関係をもっているということを伺った。診察において、患者とのやり取りで意識すべきこととして、see, listen, ask, touchを挙げられた。昼前には汕頭大学医学院の学生と交流する時間もあり、非常に有意義であった。また、学生の引率の先生によるお話の中では、「農村の医療は検査機器などがほとんどなく小さな病気しかみることができない。しかも都市部に比べて偉くなれない。しかし、ある程度長くその土地で診療をするようになると、よくかかる病気が分かってくるようになる。また、公衆衛生などを整備することによって、病気の前の段階で未然に防ぐことも非常に大切である。」とあった。

3月21日(月):
  午前は終末期にある患者の自宅の訪問に同行させていただいた。患者の命の最期をできる限り痛みを少なくして見送るという、李嘉誠氏の理念に従って為される活動であるという説明も併せて伺った。2件の家庭を訪問させていただいたが、1件目は46歳の腎臓癌の患者で、もう1件は68歳の肺癌の患者であった。薬による鎮痛のみならず、マッサージの方法なども指導していた。医師1名と看護師1名で訪問し、看護師はメンタルサポート、社会的な支持ができるような方法(社会資源)がないかなどを探す。また、2件目の患者の家庭は非常に郊外に位置しているため、訪問の頻度が月に1回未満になってしまうことがあるそうだ。さらに、中国ではさまざまな種類の方言があるため、まったく意思疎通ができない場合があるので、近隣住民の方など、誰か北京語(共通語)を話すことができる人を探す必要があるようだ。このあたりの問題は、日本とは異なる点だと感じた。午後は汕頭大学医学院の学生5名と先生方を交えてホスピスの説明、及び学生同士で意見交換をおこなった。訪問に際して白衣を着用しない理由が2つあるという。ひとつは患者やその家族から抵抗感があること。もうひとつは近所に自分が病気であることを知られたくないということである。ホスピスの理念として、痛みのケアだけではなく、精神的な部分も含めて診ること、患者のみならず家族も含めてアドバイスを提示するといった、包括的な医療を目指すことであった。また、終末期の大きな問題の一つとして“告知”がある。家族に対しては“がん”であることを伝えるが、本人には伝えない。ただ、がんではないとも伝えない。これは家族と話し合って進めていく。患者やその家族が希望、期待を失わないようにコミュニケーションをとるとのことであった。

3月22日(火):
  午前中は口唇裂センターの見学をさせていただいた。口唇裂の治療を行なうことで新しい人生を再スタートさせようというというのが試みである。センターの先生に口唇裂のタイプや問題点、どのように治療方針をたてていくのかといったことまで、細かく説明をいただいた。昨日手術を終えたばかりの赤ちゃんの病棟を案内していただいたりと、手術後の経過がよく理解できたように思う。手術が完全に終わった後、正しい中国語の発音ができるように発音練習センターという施設まで用意されており、しっかりとサポートされていると感じた。説明を頂いた先生が最後におっしゃっていたことで、こころと体が健康であるためにはコミュニケーションをとる必要があり、コトバを話せるということはその人の幸せにつながるのだと、熱く語っていらっしゃったのが印象的だった。午後からは感染科病棟の見学をさせていただいた。B型肝炎が多いようだ。結核は別の病院で診ており、外来では1日に30から40人を診察するようだ。

3月23日(水):
午前中は研究室と施設の見学、漢方科の見学をさせていただいた。研究室のほうでは、ネズミ、モルモット、ウサギなどがケージで飼われており日本の施設と同様だった。研究室内にはシークェンサー、蛍光顕微鏡などもありこちらも日本と同様であった。漢方科の病棟では子どもたちが針による治療を受けていた。顔面と頭部に数ヵ所針を刺し、先天性の弱視に対して効果があるという。子供の頃からしておくとより効果があるようだ。午後からは精神科の病棟を見学させていただいた。去年の12月に開院したばかりのとても綺麗な施設であった。外来と入院病棟があるが、入院病棟のほうを主に見学した。入院患者の多くは統合失調症である。病棟内は広々としており、精神科病棟ならではの造りをしていた。患者はスリッパを履いており、スタッフと見分けやすく、速く走ることができないように、といった意図があるようだ。患者の手芸など作品なども拝見した。中国では精神科とはいえ、男性の看護師は少ないようだ。ナースステーションや病室のつくりを含め、病棟全体を見て思ったが、日本の病棟とよく似ていると感じた。精神科病棟は北京や上海などの大都市にはあるが、まだまだ数は少ないようである。

3月24日(木):
  最後の研修日であった。産婦人科のsun先生に産科病棟を案内していただいた。少し驚いたことだが、検査室において男性医師が診察をする場合、家族でも看護師でも誰か第3者がその場に立ち合わなければならないという決まりがあるようである。病棟はやはり日本とさほど変わらない環境であった。学生側の帝王切開の手術見学の希望に対しても、快く対応していただき手術室内に入らせていただくことができた。L1とL2の間に局所麻酔を打つところから、赤ちゃんが生まれるまでは非常に時間が短かった。医師3名、助産師1名、看護師2名からチームが構成されていた。その後、救命救急センターの見学もさせていただいた。ストレッチャーに乗せられた患者が運び込まれ、非常に緊迫した雰囲気で、処置室内の電話も頻繁に鳴っていた。外で待つ家族が電話で泣き崩れる姿もあった。本当に現場は修羅場のようであった。

 今回の研修を通して、教室や日本では知ることのできない多くの学びが得られたと思う。日本の地域医療と中国の地域医療がここまでかけ離れているとは思わなかった。また、中国という国は今発展の最中にあり、華やかに見える部分も少なくないが、ミクロ的にみればまた違うものが見えてくる。色々な問題は医学の分野にかかわらず在るが、それらはその問題が起きている現場に行ってみないとわからない、行って初めてわかることもたくさんあると改めて感じた。

 最後になりましたが、汕頭大学の先生方、波田副理事長、李嘉誠基金会の方々、お世話になった方々に感謝の気持ちを忘れずに、今後も勉学に励んでいきたいと思います。ありがとうございました。


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