腎移植についてのくわしい説明

腎不全の状態と透析療法

腎臓の機能が低下すると、体内の余分な水分や尿毒素を体外に排泄することができなくなり、尿毒症という状態になります。 この状態を放置すると生命に危険が及びます。 弱った腎臓の代わりに、透析で水分や尿毒素を抜くのが透析療法です。 透析療法には血液透析腹膜透析がありますが、どちらも腎機能の一部しか代償できないため、尿毒素が高い状態が続き、健康な人と同様にはなりません。 また、日常生活における時間的、身体的制約が大きな問題になります。

腎移植と透析療法の違い

健康な腎臓を提供していただき腎移植をうけて順調な経過をたどると、尿が健康な人と同じようにでますので、腎不全から開放されます。 腎移植後は失われた腎臓の機能はほぼ正常に回復し、時間に縛られることもなく、食事や水分の制限も大幅に緩和されます。

腎移植の特徴

ただし、腎移植は腎不全の治療法のひとつですので、「移植をうければ腎不全とも病院とも縁が切れる」ということは決してありません。「移植手術の後も腎移植の治療を続ける」と考えてください。

腎移植は3段階にわけて考えることができます
第1段階 移植準備
第2段階 手術
第3段階 移植後の免疫抑制治療

腎移植の良いところ、悪いところの両方について十分にご理解いただき、腎移植をうけるかどうか決める上での参考にして頂きたいと思います。

腎移植の利点と欠点について

腎移植後に移植腎が順調に働いている場合には、健康な人と同じように尿が出て、血液中のクレアチニンも>1〜2mg/dlとほぼ正常になります。
それに伴って、いろいろな尿毒症の症状が改善しますが、その内容には個人差があります。

●透析中に感じていた疲労感がなくなる

●食事がおいしくなる

●頭がすっきりする

●「健康を取り戻した感じ」を実感する

●水分制限はなくなります

●基本的には、透析中のような食事制限はなくなります(暴飲暴食は勧められません)

●生活上では週に2-3回の透析病院通院または腹膜透析が不要になります

●腎不全による貧血も軽くなるので、造血ホルモン(エリスロポエチン製剤)を注射する必要はなくなります

●腎不全のために男性ホルモン、女性ホルモン分泌が変調をきたしていた場合、腎移植後にホルモン分泌が正常化する事により、生理が順調に戻る場合も多く見られます。 多くの患者さんが腎移植後に出産されています(しかしながら、妊娠・出産は腎臓には負担がかかります)。 男性では勃起機能が回復された方も見られます。

しかし残念ながら良いところばかりではなく、欠点も多く残されています。

●当然のことですが、まず最初に腎臓を提供してくれる人がいることが前提です。

●移植の手術を受ける必要があります。手術については後に詳しく説明します。

●手術が成功しても、そのままではせっかく移植した腎臓に拒絶反応がおこり、腎機能を失ってしまうので、拒絶反応を予防する数種類の薬(免疫抑制剤)を服用する必要があります。 この免疫抑制剤を服用しながら拒絶反応や合併症が起こらないようにする、あるいは起こった場合には早期に治療する事が必要で、これが腎移植治療の第3段階といえます。 この治療は移植した腎臓が働いているかぎりずっと続ける必要があります。

●免疫抑制剤を服用していても拒絶反応が起こることがあり、拒絶反応が進行すれば移植した腎臓の機能が低下し、透析に戻らなければならない場合があります。

●免疫抑制剤には色々な副作用があり、合併症として体に色々な不具合が起こることがあります。 合併症はごく軽いものから生命に危険が及ぶものまで程度も色々です。 副作用の予防や治療のために生活(特に食事)に制限が必要なこともあります。 これらの副作用についても後に詳しく述べます。

手術前の準備について

生体腎移植の場合

手術を安全に受けていただくために、また、腎移植後の合併症をできるだけ回避するために、手術前に腎臓以外の体の状態をくわしく調べます。 原則的には、腎臓以外に病気が見つかった場合には手術前に治療してから移植手術を行います。 透析治療を受けている場合、動脈硬化により、心臓や脳の血管が細くなっていて梗塞を起こす危険が高いことがあります。 心臓の機能に問題があると移植手術の時に心不全になったり、免疫抑制剤の副作用が強く出て移植を受けたあとで心不全になったりする恐れがあります。 また、肝臓の機能障害や糖尿病も移植前に詳しく調べます。

これらの検査は、外来通院中にしておくものと移植のために入院してから行うものとがあります。 通常は移植前に2-4週間の入院が必要です。この期間は、腎移植に備えて心と体の準備をしていただくためのものです。 血液透析を受けておられる場合は、入院中は兵庫医大病院の透析室で透析を受けていただきます。

生体腎移植の腎提供(ドナー)については、腎提供とはをご覧下さい。

献腎移植の場合

献腎移植を待つ場合には、透析施設で日常の透析治療と検査を受け、1年に1回移植施設(例えば兵庫医大)で診察を受けていただきます。

腎移植を受けようと思われる場合には、普段から検診などを受け、異常が見つかった場合には積極的に治療をうけて体調をととのえておいて下さい。 献腎移植では、「手術前に時間をかけて検査を行い、異常が見つかれば先にそれを治療する」、という生体腎移植のような時間的余裕はありません。

腎移植の治療が成功するかどうか、移植した腎臓が長持ちし、移植をうけたあなた自身も長く元気でいられるかどうかは、移植前のあなたの体調(深刻な合併症がないかどうか、あった場合にはその合併症がしっかり治療されているかどうか)に大きく影響されます。 そのために、普段の透析でのあなたの体調や合併症の程度が重要になります。

手術について

手術の傷はへその右側(あるいは左側)から恥骨の上の真ん中まで弓なりに約20cm必要です。 提供された腎臓を冷やして内部の血液を洗い流し、腎臓の動脈と静脈をあなたの下腹部の動脈と静脈につなぎます。 次に尿管を膀胱につなぎます。血管が通常通りで動脈、静脈が1本ずつであれば約1時間で血管の吻合が終わり、手術中に移植された腎臓から尿がでます。この場合は手術後に透析をする必要はありません。 しかし、血管の形が複雑な場合は手術に長い時間がかかるので、手術後すぐには尿が出ないこともあります。 このような場合には、透析をこれまで通り行いながら移植された腎臓から尿が出るのを待ちます。 通常その期間は1〜2週間です。生体腎移植の場合、このような確率は低く、5%以下です。

手術時間は5〜7時間ぐらいです。 通常の場合、腎移植手術と同時に自分自身の腎臓を摘出する必要はありませんが、患者さんの病状により必要となる事もあります。

腎移植の模式図

術後の経過について

順調に手術がすんでから、腎移植の治療の第3段階が始まります。
腎移植を希望される方の中には、手術が終わったら腎臓病とは縁が切れ、あとは自由に何でもできる、という誤解をされている場合もあるようですが、本当の腎移植の治療は、手術が終わってからはじまる、とも言えます。すなわち、移植手術が順調に終わっても、その後の治療がなければすぐに拒絶反応がおこり、腎臓は働かなくなってしまいます。

拒絶反応を予防して腎臓が働き続けるようにするのが免疫抑制剤と呼ばれる薬剤です。 腎移植患者さんは、移植をうけた腎臓が働き続けているかぎり、この免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。

免疫抑制剤には多くの種類があり、それぞれ働きも副作用も違うので、十分な効果を発揮するとともに副作用を小さくするために、2〜3種類のお薬を併用します。 毎日きっちりお薬を飲まないと拒絶反応がおこる危険性が大きくなります。 免疫抑制剤をきちんと内服していても拒絶反応は軽度のものも含めて約30%の確率で発生します。その場合には拒絶反応の治療薬を臨時で使います。
移植手術から約2カ月間は拒絶反応や副作用が起きやすいので入院治療をおこない、頻繁に血液や尿の検査を行います。免疫抑制剤は徐々に減量し、退院の頃には維持量と呼ばれる少ない量になっています。

退院後は2〜4週ごとに通院して検査を行ない、体調や腎臓に変調をきたした場合にはすぐに治療をします。

腎移植後の社会復帰について

職場や学校への復帰は、患者さんの病状により時期が異なりますが、一般的には、退院後約1ヶ月で学校や職場(事務的な仕事の場合)に戻る事ができると考えられます。 しかし、激しい運動や重いものを持つような仕事は退院後3ヶ月間控えてください。
移植前の透析治療中の骨障害に加え、数ヶ月の入院生活と免疫抑制剤による骨への影響があり、急な運動負荷は骨に対する悪影響が予想されるからです。徐々に運動量を増やして行く事は、もちろん必要です。

拒絶反応について

拒絶反応は腎移植をうけた患者さん全員に起こる可能性があります。
ただしその頻度は皆同じではありません。血液型や組織適合性があっている方では、拒絶反応の発生率は低いと予想されますが、まれには現在の技術では手術前に予想できないタイプの拒絶反応が起こる事もあります。 全般的には、拒絶反応の発生率は約30%です。 拒絶反応の症状は多彩で、尿量の減少、発熱、移植腎の痛みといったわかりやすいものから、蛋白尿、血液検査のクレアチニン上昇など、全く症状のない、わかりにくいものまで色々です。 確実に診断するためには移植腎からごくわずかの組織を採取して顕微鏡検査で診断する「腎生検」が必要です。

拒絶反応はいわば移植腎に起こる火事(炎症)のようなものなので、治療しなければ燃え広がる恐れが強いので、どのタイプの拒絶反応も基本的には治療して「消火する」必要があります。 治療する場合は毎日のんでいる免疫抑制剤を増やしたり、拒絶反応の治療時にのみ使用する専用の薬を使います。 通常、拒絶反応の90%以上は治療により治ります。

移植後の合併症について

腎移植後の合併症は非常に多彩で、そのほとんどは免疫抑制剤の副作用です。その他には手術の合併症があります。全ての薬が免疫反応をおさえて拒絶反応を予防したり治療したりする目的の薬ですので、共通する副作用として免疫が弱まったために起こる感染症が起こりやすくなります 細菌やウィルス、真菌(カビの一種)などが感染症の原因となることが多く、とくにサイトメガロウィルスによる感染が多くみられます。 このサイトメガロウィルスによって肺炎や肝炎、消化管出血などの症状がでることがありますが、現在では早期発見ができるようになり、腎移植後の重症感染症は減少しています。

しかし、感染症や他の合併症が重症化した場合は、生命に危険が及ぶこともあり得るので、腎臓をあきらめる事になっても免疫抑制剤を中止し、患者さんの命を守ることを優先します。 感染症のために患者さんが亡くなってしまう率は最近では1%ほどだと考えられます。
感染症以外の副作用は高血圧、糖尿病、高脂血症(コレステロールや中性脂肪が高くなること)、心臓障害、胃十二指腸潰瘍、肝機能障害、目の障害(白内障など)、骨の障害、肥満、多毛、脱毛、にきび、などで、長期的にはがんの発生率が高くなると考えられています。

いずれの合併症も拒絶反応の場合と同様に、現在のところ全てを予防する事は不可能ですので、早期に発見し、早期に治療する事が重要です。

腎移植の治療成績について

何をもって腎臓移植が成功したかどうか、を判断するのかは人によって価値基準が違いますが、一つの目安として「5年生着率」という言葉をよく使います。

これは移植手術の5年後に腎臓がちゃんと機能していて患者さんもお元気にされている割合を示します。 最近の日本全体での腎臓移植後5年生着率は80〜90%ですが、腎臓移植を100回以上手がけている熟練した施設では90%を超えているところが多くなっています。 以前に比べれば数字は良くなってはいますが、残念ながらまだ100%とまではいかないのが実情です。
兵庫医科大学病院では、現在の治療法が確立された1995年以後の患者さんでは、5年生着率が99%、10年生着率が88%と良好な成績です。
腎移植を受けた患者さんの生命予後は、10年生存率で95%であり、透析治療と比較して、一般的には腎移植治療の方が生命予後が良いというデータが報告されています。

兵庫医科大学泌尿器科における腎移植成績

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