外科的治療の新展開
 
1期的IAAは1990年頃からいくつかの施設で報告がありますが、本邦の症例の多くは術前に大量のステロイドを使用しているため、創傷治癒遅延や、易感染性を考慮し、3期分割手術(1期:結腸全摘術、直腸粘液瘻、回腸人工肛門造設術。2期:残存直腸切除、IAA、回腸人工肛門造設術。3期:回腸人工肛門閉鎖術。)が基本でした。その後、手術技術の進歩に伴い、全身状態の比較的良好な症例を選択して2期分割手術(1期:大腸全摘、IAA、回腸人工肛門造設術、2期:回腸人工肛門閉鎖術)が行えるようになってきました。
しかしながら、分割手術は待機期間を含め、治療期間が7〜9ヶ月に及ぶことや、2回または3回と、全身麻酔は患者さんへの負担も大きなものでした。しかし、1997年から導入したバイポーラ・シザースであるパワー・スター(Johnson & Johnson Medical KK : Ethicon Suture Division, Tokyo, Japan)と超音波駆動メスであるハーモニック・スカルペルにより、手術時間の短縮、出血量の減少、1期的手術が可能となり、回腸肛門吻合術が大きく進歩しました。


1期的手術と2期分割手術の長所、短所

1期的手術

2期分割手術

長所
●手術が1回ですみ、トータルの入院日数が少なくてすむ。
●人工肛門を経験しないですむ。

●術後早期に食事が始められる(術後2日目から水、お茶が飲め、3日目から食事が開始になる)。

●肛門部痛が軽度である。

短所
●術後、10日目まで経口摂取できない
●術後、括約筋機能が回復し、回腸嚢の貯留能が得られるまで、頻便、漏便による肛門部痛に悩まされることがある。
●ポーチ関連合併症が併発した場合、緊急手術にて人工肛門を造設しなくてはならない(トータル3回の手術が必要になる)。
●術後合併症を生じた症例では、永久人工肛門になる可能性がある。
●手術が2回必要。
●合計の入院期間が2ヶ月程度必要である。
●人工肛門を経験しなくてはならず、ストーマケアの練習が必要
●人工肛門に起因する合併症(腸閉塞、人工肛門周囲皮膚の障害など)を起こすことがある。

1期的IAAの条件
 新しい器械の導入により、1期的なIAAが可能になったとは言え、すべての症例に1期的な手術が可能になった訳ではなく、術後にpouchに関連した合併症を生じた場合には重篤な機能不全を生じる可能性もあります。そのため、手術適応は慎重に選ぶとともに、十分な、インフォームドコンセントを得る必要があります。
我々は1期的IAAの条件を術前条件と術中条件に分け、以下のように定めています。

術前条件


1) 潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別診断がついている症例。
2) 大腸穿孔による腹膜炎や腹腔内膿瘍の存在しない症例。
3) 肛門部に痔瘻や肛門周囲膿瘍の存在しない症例。
4) 劇症型は除外する。

 術前のステロイド量に関しては、制限因子とはしていませんが、強力静注療法を行っても改善傾向を認めないような緊急手術症例に対しては、分割手術を行っています。尚、現在までに施行した1期的手術症例の術前ステロイド量の中央値は20mg/dayでした。

術中条件


1) 粘膜切除が比較的容易で、肛門管の汚染が軽度な症例。
2) J-pouchが十分肛門まで到達する症例。

 直腸粘膜の炎症が強度な症例では、粘膜切除時に粘膜を損傷し、内括約筋を汚染することがあります。
また、このような症例では、直腸粘膜がすでに部分的に欠損し、炎症が筋層にまで波及している症例が多く、術前の括約筋機能も低下していると考えられるため、分割手術を選択しています。また、J-pouchが肛門まで十分に到達するかどうかは大きな要因となります。肥満体型の患者では小腸間膜を十分に伸展することができず、吻合部に過度の緊張が生ずるため、分割手術を余儀なくされる症例も見られます。

1期的IAA後の合併症
 2003年12月までに150例に1期的IAAを行い、J-pouch自体またはJ-pouchと肛門吻合部の縫合不全から骨盤内膿瘍等を生じ、人工肛門造設術が必要であった症例は6例(4%)でした。この6例のうち1例は経過観察中ですが、保存的に瘻孔治癒が確認出来た残りの5例はすでに人工肛門閉鎖術を終了しています。


下に、1期的IAAと2期分割手術の術後経過を示します。


1期的IAA後の排便機能

術後の排便回数を下のグラフにに示します。(いずれも中央値)

術直後は括約筋機能が不十分なことと、J-pouchの容量が約40ml(術後1年で約200mlにまで増加する。)しかないため、頻便、漏便とそれに伴う肛門部痛を伴います。肛門部周囲に塗布する軟膏のみで対処できる患者さんと、鎮痛剤の処方を必要とする患者さんがいますが、術後1ヶ月で鎮痛剤の処方はほとんどの症例で不必要となります。排便回数は術後3ヶ月で7回前後に安定し、術後1年で5回前後となります。夜間排便は術後3ヶ月以降ではほとんど見られなくなります。一方、漏便は、昼間は3ヶ月以降、90%以上の症例で見られなくなるものの、夜間の漏便は、3ヶ月以降でも、約40%に見られますが、頻度的には週3回以内かつ、汚染の程度も硬貨大で、排便状態にほぼ満足している患者さんが多い。
 1期的IAA後の排便機能は、術後1ヶ月以内は特に不安定で、肛門部の疼痛を訴える患者さんが多いが、術後3ヶ月で、ほぼ安定することを下表に示します。

2週間後
(94人)

1ヶ月後
(74人)

3ヶ月後
(73人)

6ヶ月後
(49人)

1年後
(25人)
昼間の漏便 漏れなし

42
(44.7%)

45
(60.8%)

61
(83.6%)

43
(87.8%)

22
(88.0%)
硬化大

50
(53.2%)

29
(39.2%)

12
(16.4%)

6
(12.2%)

3
(12.0%)
拳大

2
(2.1%)

0

0

0

0
夜間の漏れ便 漏れなし

3
(3.2%)

15
(20.3%)

34
46.6%)

24
49.0%)

11
44.0%)
硬化大

84
(89.4%)

54
(73.0%)

38
(52.1%)

23
(46.9%)

13
(52.0%)
拳大

7
(7.4%)

5
(6.8%)

1
(1.4%)

2
(4.1%)

1
(4%)
便とガスの区別がつくか

19
(59.6%)

41
(55.4%)

64
(87.7%)

45
(91.8%)

24
(96.0%)
便を我慢できるか

56
(59.6%)

58
(78.4%)

67
(91.8%)

46
(93.9%)

24
(96.0%)
内服 排便調節薬

51
(54.3%)

39
(52.7%)

56
(76.7%)

35
(71.4%)

16
(64.0%)
鎮痛剤

11
(11.7%)

7
(9.5%)

0

0

0
肛門周囲軟膏

87
(92.5%)

67
(90.5%)

50
(68.5%)

26
(53.1)

12
(48.0%)

 従来法では、IAA後3ヶ月で人工肛門閉鎖術を行っており、そのための入院期間(約1ヶ月)や、社会復帰までの期間を考えると、1期的手術の有用性を明らかに指摘することができます