当科では神経科学分野の基礎から臨床にわたる幅広い分野で研究を行っております。
その一部ではありますが、紹介させていただきます。
 

神経軸索ジストロフィーの成因に関する研究 芳川 浩男
神経疾患における臨床神経生理学的検討 武田 正中
私が興味を持っている臨床研究テーマ 梶山 幸司
筋強直性ジストロフィーの研究 木村   卓




神経軸索ジストロフィーの成因に関する研究
芳川 浩男


Neuroaxonal dystrophy(NAD)を引き起こすヒトの疾患にはSeitelberger’s disease Hallervorden-Spatz diseaseなどがありますが、その成因に関してはわかっていません。
NADで見られる形態的特徴は神経軸索内にミトコンドリア、小胞体、フィラメント(ニューロフィラメント、微小管等)、dense bodyなどが貯留することによる、軸索の膨化及び脱髄です。
これらの微細構造は電子顕微鏡により観察できることですが、中でもdense bodyに関しては電子顕微鏡を用いても、正確な構造を把握することはできません。
我々はNADにおいて良く観察されるdense bodyがNADの成因を読み解く一つの鍵になるのではないかと考え研究を行いました。
 

 動物ではNADを示すいくつかのモデル動物がいますが今回、国立・精神神経医療研究センターの和田圭司先生から供与されたgad (gracile axonal dystrophy) mouseを用いて実験を行いました。
このマウスはUCHL-1というユビキチン化に関連した遺伝子が欠損しているマウスで、延髄薄束核部分に特異的な病理像が見られ、末梢神経障害を呈しますが、運動ニューロンには異常が無く、感覚ニューロンのみの異常が特徴的です。
また末梢神経に病理像が見られない点も特徴的です。gad mouse延髄薄束核の神経軸索内にもNADで見られるdense bodyがありますが、それが何であるかを特定する研究方法は中々見つけられませんでした。
図1 gad mouseの神経軸索
矢印で示した黒い円形上のものがdense body
 


しかし近年、新しい実験方法に質量顕微鏡法(imaging mass spectrometry, IMS)が開発され、NAD研究に光明が見えてきました。IMSとは組織切片上から直接質量分析を行うことができる画期的な方法です。我々は浜松医科大学・細胞生物学教室の瀬藤光利先生との共同研究でIMSを使った新たな実験を行いました。
この方法では脂質の解析を容易に行うことが出来るため、まずdense bodyに脂質成分が含まれているかどうかを検討したところ、sulfatide(ST)がgad mouseで増えていることがわかりました。STは炭素数、不飽和、水酸基等の構造上の違いがあり、生体内での役割に違いがあると考えられています。今回は特に細胞などの膜の構成に関与していると思われるSTの蓄積が観察されました。


 
図2 IMS測定までの流れ

凍結した延髄をクライオスタット(@)で組織切片を作りスライドガラスに張り付け乾燥させる。
組織切片にマトリックス(組織をイオン化させやすくする物質)をスプレーで噴霧する(A)。
スライドガラスを装置(B)にセットし、レーザーを当て組織をイオン化させる。
イオン化させた組織を測定し、スペクトラルデータ(C)より物質の特定を行う。


 本来ユビキチンというタンパク質の分解に関与している遺伝子が欠損しているこのマウスで、脂質であるSTが蓄積するという事象がどのような意味があるのかは現在のところ不明ですが、ひとつの可能性として、ユビキチンのタンパク分解障害による、STを含む何らかの未消化タンパク質が複合体を作り蓄積しているのではないかと考えています。
今後はこれらの蓄積物のさらなる検討を行い、NAD原因解明の一助になればと考えています。

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神経疾患における臨床神経生理学的検討
武田 正中


パーキンソン病関連疾患(パーキンソン病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症)、認知症疾患(アルツハイマー病、血管性認知症)や末梢神経疾患(CIDP、MMN)の病態を検索するため、事象関連電位・大脳誘発電位などの電気生理学的検討をおこなってきました。 


図1痛みの経路


今回は痛みの電気生理学的検討(痛み関連電位)について紹介します。
当大学整形外科との共同研究です。「痛み」とは「実際に何らかの組織損傷がおこったとき、あるいはそのような損傷の際に表現されるような不快な感覚および情動体験」と定義されます。
痛みは、自己の外界において感覚対象を共有できる視覚や聴覚と異なり、自分自身が感覚の対象であり、極めて主観的な意識であるため客観的に評価することは困難といわれます。
皮膚の傷害受容器が情報を受け、脊髄後角までAδ線維とC線維が痛みの情報を伝えます。
視床、対側一次感覚野、両側の二次感覚野、両側の島皮質、対側の帯状回とくに前帯状回、前頭葉などさまざまな部位が痛みに関与するとされています。
我々は「痛み関連電位」を用い、パーキンソン病や他の神経疾患患者の痛みの病態を検索し、これらを客観的に評価し、その原因となる病巣部位を想定することにより、痛みの中枢機序解明の糸口を見つけたいと考えています。



(痛み関連電位検査中の様子です)

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私が興味を持っている臨床研究テーマ
梶山 幸司


神経内科外来を毎日勤めている普通の臨床医ですので以下のような方針で勉強しております。
方針: 臨床の中から湧いてきた疑問に対して、臨床医であれば誰でも可能な平易な方法でアプローチし、成果を再び臨床に還元すること。 

1.パーキンソン病

Braak仮説に刺激され嗅覚障害についてOSIT-Jを用いて検討しました(第48回学術大会発表)。
7割以上のパーキンソン病患者で嗅覚低下を認め、パーキンソニズムの鑑別に有用でした。日常臨床で今でも利用しておりますが、残念ながらキットの製造が中止となってしまいました。
ついでREM睡眠行動異常(RBD)について質問用紙を作成し嗅覚障害との関連について検討し、RDBを呈する患者は嗅覚障害が強いことを確認しました(第50回学術大会発表)。
いずれの非運動症状も認知症と深い関係があると推測されましたので、その後は認知症を伴ったパーキンソン病に興味を持っています。 認知症を予測・反映するマーカとして脳波に着目し、FFT解析を行ってみました。

図1 各種パーキンソニズムとOSIT-J得点

 

認知症の進行に伴って段階的にパターンが変化することを見いだし報告しました(第52回学術大会発表)。
低周波数の脳波が実際の脳活動とどのような関連があるのか不明ですが、今後、SPECTや可能であればfcMRIと比較検討してみたいと考えております。

 

 図2 PDD患者power spectrumの一例

2.多発性硬化症・視神経脊髄炎

近年、抗AQP-4抗体が発見されNMOとMSの違いについて興味を持っております。慢性肝炎治療で使われているIFNに関連して発症したNMOを2例経験し、第49回学術大会で発表しました。
MSでは診断と経過観察にMRIがますます重要になってきております。
急速な脳萎縮と認知症を呈する患者を複数経験しました。SIENAX(FSL)を利用して臨床で撮像したMRIの定量化を試みました。試行錯誤のうえ実用化にある程度成功しましたので標準化脳体積とPASAT等の高次機能検査との関連を検討しました(第51回学術大会発表)。この方法を患者の経過観察に役立てております。

Pearson相関係数 0.60, p<0.001

図3 標準化脳体積と高次機能検査PASAT-2とは緩やかな相関がある


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筋強直性ジストロフィーの研究
木村 卓


本疾患はCTGリピートの延長によるいわゆるトリープレットリピート病ですが、非翻訳領域にリピートが存在するため、そのメカニズムは他のトリープレット病(ハンチントン病、脊髄小脳変性症)などと異なります。つまり蛋白にならない領域での異常がどのように病態に結びつくかは長い間不明でした。
現在ではリピートが延長したRNAが核内に蓄積することによって病気が起こっていることが明らかにされています。またその結果、様々な遺伝子でのスプライシング異常が起こり、それが病態にかかわっていることも明らかになっています。
しかしこれらのスプライシング異常のうち、どれが病態にかかわっているのか、どの部分を改善させれば、治療に結びつくかなどまだまだ不明な点がたくさんあります。また本症は、骨格筋、心筋、目、中枢神経(脳)などで、多彩な症状を起こすことが知られており、それぞれの臓器で症状発現メカニズムが異なると考えられます。

当研究室では1)中枢神経病変の解析、2)骨格筋細胞への治療法の開発を軸に研究を進めています。
 



細胞培養・動物実験を用いた解析を行っています


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