当科では神経科学分野の基礎から臨床にわたる幅広い分野で研究を行っております。
その一部ではありますが、紹介させていただきます。
 


項目 研究代表者
 
筋強直性ジストロフィー中枢神経症状の病態解明

パーキンソン病、非典型パーキンソニズムに対する拡散テンソル解析、VBMを用いた脳画像解析


木村 卓

高齢者てんかんと認知症の関連性についての検討

武田 正中
 
神経軸索ジストロフィーの病因に関する研究

渡邊 将平




筋強直性ジストロフィー中枢神経症状の病態解明
木村卓、西将光、吉積一樹


筋強直性ジストロフィーは成人で最も頻度の高い筋ジストロフィー症です。筋力低下、筋強直症などの骨格筋症状のほか、日中過眠や記銘力低下などの中枢神経症状を伴います。これらの中枢神経症状は筋力が比較的保たれている病期よりみられ、健康関連QOLに大きくかかわっています。本疾患での中枢神経病態を解明し、治療へ結びつけるための研究を行っています。  



図1 スプライシング異常

筋強直性ジストロフィー症はMyotonin-protein kinase遺伝子(DMPK)の非翻訳領域に存在するCTGリピートの異常伸長が原因です。
CTGリピートから転写されたCUG伸長部分でヘアピン構造を形成する事により、DMPK-RNAの細胞質への搬出が妨害されて核内に蓄積します。
CUG伸長部分に結合するスプライシング制御蛋白(muscleblindファミリーのMBNL1/2など)も共に核内に閉じ込めてしまうため、種々の遺伝子のスプライシング異常を引き起こします(図1)。
私たちは本症患者筋で多数のスプライシング異常を報告してきました。
筋肉でのスプライシング異常および症状の多くは、MBNL1ノックアウトマウス筋でも再現されるため、筋肉ではMBNL1が核内に閉じ込められ、本来のスプライシング制御機能を発揮できないことが病態につながると考えられています。
一方MBNL1ノックアウトマウスでは中枢神経症状やスプライシング異常は再現できないのに対して、MBNL2ノックアウトマウスでは再現できることを報告しました。
さらにMBNL1/MBNL2ダブルノックアウトマウスでより重篤な症状・スプライシング異常が再現できることも報告しています。
これらのことから脳では主にMBNL2の搬出障害が種々のスプライシング異常を引き起こしており、MBNL1も相補的にスプライシング異常に関与していると考えられます。

私たちは中枢神経内でこういった病理メカニズムが異なることに注目しています。
例えば小脳ではDMPK遺伝子のCTGリピート数が短く、CUG伸長RNAの核内への蓄積が少なく、splicing異常が起こりにくいことがわかっています。
また私たちの研究で小脳内でも細胞によってスプライシングパターンが異なることもわかってきました。
さらに大脳には神経細胞の多い皮質、神経線維を多く含む白質がありますが、その部位によってもスプライシングパターンが異なることを最近報告しました。
さらに大脳基底核という本疾患での萎縮が報告されている部位でのスプライシング異常を検討していく予定です。このように中枢神経は複雑で、病態の全容解明にはまだしばらくかかると思いますが、成果を積み上げ、治療に結び付けたいと思っています。


参考文献

1. Suenaga K, Lee KY, Nakamori M, Tatsumi Y, Takahashi MP, Fujimura H, Jinnai K, Yoshikawa H, Du H, Ares M Jr, Swanson MS, Kimura T.・Muscleblind-like 1 knockout mice reveal novel splicing defects in the myotonic dystrophy brain.・PLoS One・7・e33218・2012
2. Charizanis K, Lee KY, Batra R, Goodwin M, Zhang C, Yuan Y, Shiue L, Cline M, Scotti MM, Xia G, Kumar A, Ashizawa T, Clark HB, Kimura T, Takahashi MP, Fujimura H, Jinnai K, Yoshikawa H, Gomes-Pereira M, Gourdon G, Sakai N, Nishino S, Foster TC, Ares M Jr, Darnell RB, Swanson MS. Muscleblind-like 2-mediated alternative splicing in the developing brain and dysregulation in myotonic dystrophy. Neuron・75・437~450・2012
3. Goodwin M, Mohan A, Batra R, Lee KY, Charizanis K, Fernández Gómez FJ, Eddarkaoui S, Sergeant N, Buée L, Kimura T, Clark HB, Dalton J, Takamura K, Weyn-Vanhentenryck SM, Zhang C, Reid T, Ranum LP, Day JW, Swanson MS. ・MBNL Sequestration by Toxic RNAs and RNA Misprocessing in the Myotonic Dystrophy Brain.・Cell Rep.・12・1159~1168・2015
4. Freyermuth F, Rau F, Kokunai Y, Linke T, Sellier C, Nakamori M, Kino Y, Arandel L, Jollet A, Thibault C, Philipps M, Vicaire S, Jost B, Udd B, Day JW, Duboc D, Wahbi K, Matsumura T, Fujimura H, Mochizuki H, Deryckere F, Kimura T, Nukina N, Ishiura S, Lacroix V, Campan-Fournier A, Navratil V, Chautard E, Auboeuf D, Horie M, Imoto K, Lee KY, Swanson MS, de Munain AL, Inada S, Itoh H, Nakazawa K, Ashihara T, Wang E, Zimmer T, Furling D, Takahashi MP, Charlet-Berguerand N.・Splicing misregulation of SCN5A contributes to cardiac-conduction delay and heart arrhythmia in myotonic dystrophy. ・Nat Commun.・7・11067・2016
5. Furuta M, Kimura T, Nakamori M, Matsumura T, Fujimura H, Jinnai K, Takahashi MP, Mochizuki H, Yoshikawa H. ・Macroscopic and microscopic diversity of missplicing in the central nervous system of patients with myotonic dystrophy type 1.・Neuroreport・29・235~240・2018
6. Takashi Kimura・Molecular Defects in the DM Central Nervous System in Myotonic Dystrophy・Myotonic Dystrophy: Disease Mechanism, Current Management and Therapeutic Development (Masanori P. Takahashi and Tsuyoshi Matsumura Editors)・115-132・Springer・2018
7. Nishi M, Kimura T, Igeta M, Furuta M, Suenaga K, Matsumura T, Fujimura H, Jinnai K, Yoshikawa H. Differences in splicing defects between the grey and white matter in myotonic dystrophy type 1 patients. PLoS One. 2020 May 14;15(5):e0224912, 2020

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パーキンソン病、非典型パーキンソニズムに対する拡散テンソル解析、VBMを用いた脳画像解析
木村卓、笠間周平、坂本峻


パーキンソン病関連疾患は、パーキンソン病・痴呆を伴うパーキンソン病・びまん性レビー小体病・多系統萎縮症・進行性核上性麻痺•大脳皮質基底核症候群など多くの病気を含みますが、病初期の診断は容易ではありません。
各病型に特徴的なマーカーとなる検査は限られており、診断率向上のためには更なるマーカーが必要と考えられています。
私たちは、MRI検査により得られたデータを解析することにより新たな診断マーカーの開発、病態解明を目的とした研究を行っています。
拡散テンソル解析とは拡散強調画像のデータを用いて神経線維の方向を解析する方法です。
最近では脳の複雑な神経線維を解析することが出来るFBA(fixel based analysis)という手法を導入しています。
一方VBM(voxel based morphometry)は脳の形態学的解析をする方法です。これらの手法を組み合わせて各疾患の病態を明らかにし、最終的には一人一人の患者さんの診断マーカーとして使用できることを目指しています。
 


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高齢者てんかんと認知症の関連性についての検討
武田 正中


当教室および認知症疾患医療センターにおいて「アミロイドPETを利用した早期認知症診断」の研究のため、神経学的評価、高次脳機能評価、MRI、SPECTとアミロイドPETとの関連を検討しています。これと同時に高齢者てんかんとの関連を検討したいと考えています。
 


図1 AD患者のPiBアミロイドPET画像



図2 てんかん性放電を認めるMCI患者の脳波
認知症の原因疾患で最も多いのがアルツハイマー型認知症(AD)です。
一方、AD患者のてんかん発作発症率は10~30%といわれています。
ADに合併するてんかんは軽度認知障害(MCI)の時期から生じているとされ、ADの病態生理がてんかん発作にも関与していると考えられています。
ADの原因はアミロイドβが脳内に沈着し、老人班を形成するとともに、神経原繊維変化、細胞死に至るというアミロイドカスケード説が考えられています。
アミロイドβが蓄積すると、異常な神経活動やシナプス機能障害が生じ、代償性の抑制性反応として神経回路障害が起こります。
一方、異常な神経活動はアミロイドβの蓄積を促進し、てんかん発作を誘発することで神経回路障害を引き起こします。
我々は、MCIおよびAD患者において、アミロイドPETにてアミロイドβ蓄積の状態を検索し、加えて脳波検査で評価し、AD患者におけるてんかん性放電の検索をしています。
将来的にはてんかん性放電があった患者に、てんかん治療を行うことでMCIからADへの進展、ADの進行を防ぐことができるかを研究したいと考えています。


【対象】兵庫医科大学病院認知症疾患医療センター、兵庫医科大学病院に入院・外来通院のMCIおよびAD患者(年齢65~90歳)
【神経心理学検査・臨床機能評価】改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Instruction manual of Japanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)
【画像検査】頭部MRI、脳血流シンチグラフィー、MIBG心筋シンチグラフィー、アミロイドPETを必要に応じて施行
【脳波】脳波検査、可能な場合は終夜睡眠ポリグラフィー(予定)

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 神経軸索ジストロフィーの病因に関する研究
渡邊 将平



神経軸索ジストロフィー(Neuronal Axonal Dystrophy: NAD)は、神経軸索内に異常ミトコンドリア、小胞体、ニューロフィラメント、dense body等の細胞小器官(オルガネラ)が異常集積する病態です。
NADが主要な病変として出現する疾患としてはNBIA(Neurodegeneration with brain iron accumulation)や乳児型神経軸索ジストロフィーなどがありますが、その詳細な病因は未解明です。
そこで、我々はNADのモデル動物であるgad (gracile axonal dystrophy)マウス(国立精神医療研究センター・神経研究所の和田圭司先生から供与)を用いてNADの病態解明に挑むことにしました。このgadマウスはUbiquitin carboxy-terminal hydrolase L1(UCH-L1)遺伝子が欠損しており、延髄薄束核部分に特異的な病理像がみられます。
UCH-L1遺伝子の欠損によって、タンパク質の品質管理に重要なユビキチン・プロテアソーム系(ユビキチンを介したタンパク質分解システム:以下UPS)におけるポリユビキチン化が阻害されることが先行研究で報告されています。
我々はUPSと並んでタンパク質品質管理に重要なオートファジー系に着目し、実験を行いました。その結果、gadマウスではcontrolマウス(対照としての正常マウス)と比べて、延髄薄束核でLAMP1, LC3, p62などのオートファジー関連タンパクの発現が増加していることを見出しました。(図1)


図1)gad マウスの延髄薄束核の免疫染色像。
Controlマウスに比べてhomo(gad mouse)でLAMP1、LC3、p62の発現量が増加している。



さらにgadマウスの延髄薄束核を電子顕微鏡で観察したところ、NADでみられるdense body(矢尻)に加え、二重膜をもったオートファゴソーム様の構造物(矢印)も見出しました。(図2)


図2)gad mouseのhomoの延髄薄束核の電顕像。
電子密度の高いdense body(矢尻)とオートファゴソーム様の構造物(矢印)がみられる。


以上の結果から、gadマウスの病態にオートファジー系が関与している可能性が示唆されました。
今後はオートファジーの各段階についてさらに検討をすすめていきたいと考えています。
この研究を進めることにより、オートファジーの関与が知られている他の神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)の病態解明につながることが期待されます。

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