臨床試験とは

 現在、標準的に行われている治療よりも、より良い治療法を確立することを目的として、患者さんに協力していただいて、新しく考案された治療法や新しい薬の有効性や安全性について調べる試験のことをいいます。また、厚生労働省から未承認薬(新薬)の承認を受けるために行う臨床試験のことを「治験」といいます。

臨床試験の進め方

 臨床試験には順番と段階があり、各段階で安全性と有効性を確認しながら慎重に試験を進めていきます。がん患者さんを対象とした抗がん剤の臨床試験には、第I, II, III相試験があります。
第I相試験とは、主に安全性を調べる試験で、副作用に注意しながら抗がん剤の投与量を少しずつ増量し、安全に投与できる量を決めていきます。
第II相試験では、第I相試験で決められた推奨投与量で治療し、腫瘍に対する効き目を調べるとともに安全性を再確認します。
第III相試験は、新しい治療法がこれまで標準的とされてきた治療法と比べてより良い治療法であるかを、患者さんを無作為に二つの治療群に振り分けることによって調べる方法です。この比較試験ともいわれる方法は、二つの治療法を公平に評価するために必要な方法で世界的にも広く認められています。これらの段階を経て、新しい治療法が従来の治療法よりも優れていることが医学的に証明された場合、新しい標準的治療法が確立されます。

臨床試験を行う時のルール

 臨床試験は患者さんを対象として行うために、厳しい規則や基準が設けられています。 臨床試験を企画し実施する医師や研究者は、これまでの様々なデータ研究成果を分析して試験実施計画書(プロトコール)を作成します。実際の臨床試験は、この計画書に従って厳密かつ忠実に実施されます。
臨床試験に参加される患者さんの人権を守るために、医師や研究者は、臨床試験の倫理的規範を示した「ヘルシンキ宣言」(世界医師会)や「臨床試験に関する倫理指針」(厚生労働省)を守ることを厳しく求められます。また、新薬の治験に関しては、薬事法(製薬会社への規則)や「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)などの法令による規制を受けることとなります。

インフォームド・コンセントとは

 「説明を受けた上の同意」と訳されています。臨床試験に参加していただく患者さんに、試験の目的や方法、予想される効果や起こりえる副作用、患者さんの権利やプライバシーについて十分説明し、十分に理解していただいた上で、試験に参加することに同意していただきます。

よくある質問と答え

Q1どこの医療機関でも臨床試験に参加できますか?

A 臨床試験を実施している医療機関は限られていますので、どこの医療機関でも試験に参加できるというわけではありません。臨床試験に参加を希望される患者さんは、現在、診療を受けている医療機関の主治医にご相談され、参加するかどうかを決めて下さい。また、現在、診療を受けている医療機関で試験を受けることができない場合は、主治医から試験を実施している他の医療機関を紹介してもらって下さい。

Q2臨床試験を実施している医療機関では、必ず試験に参加しなければならないのですか?

A 臨床試験に参加するかどうかは、患者さんご自身の自由な意思によって決めていただくことができます。臨床試験については、担当医が文書を用いて十分な時間をかけて説明を行います。説明内容をよく理解し、納得していただいた上で、試験に参加するかどうかをお考え下さい。説明を受けたその場ですぐに返事をする必要はなく、文書をご自宅にお持ち帰えりになり、ご家族ともよくご相談されてから、お決め下さい。

Q3臨床試験への参加を断った場合、主治医との関係が気まずくなりませんか?

A 臨床試験への参加は、あくまでも患者さんご自身の自由な意思によるものですので、参加を断られた場合でも、その後の診察や治療に影響を及ぼすことは何らありません。

Q4臨床試験に用いられる試験薬とはどのようなお薬ですか?

A 臨床試験に用いられる試験薬は、厚生労働省が認可・承認し、実際の患者さんに投与できるものです。既に、患者さんに対する効き目や副作用は確認されています。

Q5副作用の心配はありますか?

A 厚生労働省に承認された薬にも副作用はあります。また、新しく考案された治療法においても副作用の出ることが予想されます。試験期間中は、副作用を早期に確認するために詳しい診察や検査を行います。少しでも異常を感じられたら、すぐに担当医にお知らせ下さい。副作用に対して速やかに適切な処置を行うことで、症状を最小限に抑えることができます。

Q6臨床試験に参加するメリットはありますか?

A 臨床試験による治療を受けられた場合は、より細やかな診察や詳しい検査が行われるため、ご自分の病気の状態をより詳しく知ることができます。また、現在の標準的な治療に比べて、より良い治療効果が得られる可能性もあります。

Q7臨床試験に参加することで制約を受けることがありますか?

A 臨床試験の場合、一般の診療よりも検査や診察日が多い場合があります。また、あらかじめ治療や検査の日程が決められていたり、試験薬と一緒に服用できる他の薬が制限されるなど、守っていただくことが多くなります。

Q8臨床試験に参加するために特別な費用はかかりますか?

A 個々の臨床試験によっても異なりますが、試験薬が製薬会社から無償で提供されたり、臨床試験のために行われる検査の費用も製薬会社が負担する場合があります。また、通院のための交通費の一部が支払われることもあります。一方、治療も含めたすべての診療を健康保険の適応される範囲内で行い、患者さんにお支払いいただく試験もあります。詳しくは、臨床試験の担当医にご相談下さい。

Q9プライバシーや個人情報は守られますか?

A 臨床試験に参加された患者さんのプライバシーや人権は、国の定めた基準によって厳重に守られています。臨床試験を受けられた医療機関、試験を依頼した製薬会社もしくは国の機関などから、あなたの個人情報が外部に漏れる心配は一切ありません。

Q10臨床試験に参加し治療を受けている途中でも、治療をやめることはできますか?

A 臨床試験への参加に同意した後でも、ご自分の自由な意思で試験への参加を取りやめることができます。試験への参加を途中で取りやめても、あなたが不利な扱いを受けることは決してなく、これまで通りの適切な治療を受けることが保証されています。また、この場合、臨床試験による治療以外の治療法を選択することができます。

Q11副作用などで健康被害が生じた場合、補償を受けられますか?

A 試験薬の副作用などによってあなたの健康が害された場合、速やかに適切な治療が行われます。これらの治療は通常の健康保険による診療だけで行われる場合と治療にかかる費用負担を軽減する措置を受けることができる場合とがあります。詳しくは、臨床試験の担当医にご相談下さい。

計画中の中皮腫臨床試験

 がん治療の三本柱は、手術療法、放射線療法、化学療法とされています。しかし、中皮腫に対する標準的な治療法は、未だ確立されていないのが現状です。化学療法に関しては、これまで中皮腫に有効な抗がん剤が少なく、肺がんに効く薬を幾つか組み合わせて投与してきました。最近、海外と我が国で行われた臨床試験の結果から、ペメトレキセド(アリムタ®)とシスプラチンとの組み合わせによる化学療法が中皮腫に有効であることが示されました。この結果から、平成19年1月、ペメトレキセド(アリムタ®)とシスプラチンは我が国において初めての中皮腫治療薬として承認されることとなりました。
 現在計画中、または実施中の臨床試験は以下のとおりです。
1)手術ができると判断された患者さんには、手術前にペメトレキセド(アリムタ®)とシスプラチンとによる化学療法を行った後、手術によって胸膜と肺をすべて取り除き、最後に手術をした片方の胸郭に放射線を照射するという治療法(集学的治療法)が安全に施行できるかを調べる試験を行っています。
2)手術が難しい患者さんで、過去にペメトレキセド(アリムタ®)以外の抗がん剤で治療された経験のある方は、ペメトレキセド(アリムタ®)とシスプラチンとの組み合わせによる化学療法がどれくらいの効き目があり、どの程度の副作用が出るのかを調べる試験を行っています。
3) 手術が難しい患者さんで、今回初めて中皮腫と診断された方は、先ずペメトレキセド(アリムタ®)とシスプラチンとの組み合わせによる化学療法を行うことになると思われます。その中で、ご高齢の患者さんや全身状態が少しお悪い患者さんにも、この治療が安全に施行できるかを調べる試験を考えています。また、この治療の効果が乏しくなってきた時に、次にどの薬を投与すれがよいのかを調べる試験を考えています。