中皮腫とは

中皮腫は体腔の内面を広く覆う漿膜に発生する腫瘍で、胸膜・腹膜・心膜および極めて稀に精巣鞘膜から発生します。最も多いのが胸膜に発生する中皮腫です。 肺癌と混同されることが多いですが、全く異なる疾患です。肺癌との違いをミカンに例えて説明しますと、ミカンの房の実にできるのが肺癌であり、ミカンの房の皮にできるのが胸膜中皮腫と考えて頂くと判り易いと思います。






胸膜中皮腫は予後の芳しくない悪性腫瘍ですが、早期例であれば、ミカンの“房の皮”を剥ぐ手術(胸膜剥皮術)や、ミカンの実を根こそぎ切除する手術(胸膜肺全摘術)を行うことがあります。 局所再発率が高いので、抗癌剤や放射線治療を併用致します。中皮腫には抗癌剤や放射線治療は効果がないと考えられがちですが、90年以降に登場した抗癌剤や、最近、開発された葉酸拮抗薬の中には良好な抗中皮腫活性を示すものがあります。






中皮腫の歴史

中皮腫は欧米において 「21世紀初頭の疾患」 と呼ばれてきました。 その理由は1990年頃から共通して患者数の著明な増加が認められ、総じて2020年頃にピークを迎えることが予想されているからです。この原因が、大量に消費されたアスベストにあることは多くの疫学的研究から疑う余地もありません。


我が国の中皮腫死亡は1995年から2003年にかけて1.75倍となり、500人/年から878人/年に急増しています。初めてアスベストの曝露を受けてから40年の長い潜伏期間を経て中皮腫が発症しますが、1970年代に始まった欧米のアスベスト規制から30年以上が経過した現在、早くから規制に取り組んだ国々ではその影響がそろそろ現れる時期にきています。