我々の活動内容

研究内容

麻酔科学は学際領域の応用科学である。 手術侵襲や疼痛に関わる急性期の反応を神経科学、呼吸生理学、循環生理学、代謝面で研究解析する分野と、医用工学面でのモニタリング機器の開発、急性期医学に関連した学生・卒後教育に関する研究に取り組んでいる。

具体的な内容

  1. 産科麻酔・周産期麻酔に関わる基礎および臨床的研究
  2. 周術期モニタリング機器の開発と精度比較
  3. 物理化学的手法を用いた麻酔作用機序の解明
  4. 吸入・静脈麻酔薬の臨床薬理と実技訓練方法(シミュレータによる教育方法)の開発
  5. ショック・体液管理の基礎と臨床的研究

また、基礎医学系講座との共同研究にて疼痛ストレスに伴う脊髄レベルでの各種物質の遺伝子発現に関わる研究などを実施している。


妊娠高血圧症妊婦における周術期輸液管理の後ろ向き検討(狩谷伸享)

通常の帝王切開術では脊椎くも膜下麻酔後の低血圧を避けるために輸液製剤を急速投与することが一般的である。しかし、妊娠高血圧症候群患者の術中輸液管理についてもこのような処置が有効かどうかについての十分なデータが蓄積されていない。これらの患者では血管透過性が亢進しているため正常妊婦に比べて輸液による血圧維持効果が乏しい可能性があるためである。そこで、過去8年間に行われた妊娠高血圧症候群患者における輸液の有効性を正常妊婦と比較検討する後ろ向き研究を行う。


 Arteminによる疼痛関連TRP受容体発現調節メカニズムの解明 (池田 慈子)

外 傷や手術に伴って生ずる末梢神経障害や糖尿病などに続発するニューロパチーなど、神経障害性疼痛の原因として数多くのメカニズムが報告されている。神経障 害や炎症が生じた時には一次知覚ニューロンの細胞体が存在する後根神経節(DRG)において遺伝子発現の変化が見られることが知られている。その中でも特 に、ペインセンサーとしてのTRPV1やTRPA1の制御因子に関しての様々な報告がなされているが、未だ説明できない点が数多く認められる。我々はこれ までにDRG neuronのTRPV1やTRPA1と神経成長因子ファミリー受容体であるGFR alpha3がきわめて高い共存率であることをつきとめ、そのリガンドであるArteminに着目した。ペインセンサーであるTRPV1とTRPA1の制 御因子として作用し、神経障害性疼痛や炎症時の痛み発症にArteminが関与しているのでないかと考え、長期的に持続する痛みメカニズムの解明を進めて いく。

 小児日帰り手術の超音波エコーガイド下神経ブロックが術後の回復に及ぼす影響の検討 (池田 慈子)


超音波エコーガイド下神経ブロックは、成人の術中術後の疼痛管理に効果的であるという報告は多数あり、近年小児に対しても行われているが、当院では 定期的には行われていない。また、当院でも小児に多く取り入れられている日帰り手術においては、術中に使用する麻薬量により病院滞在時間が延長、副作用が 激しければ一泊入院という事もある。今回、小児日帰り手術症例で、全身麻酔に超音波エコーガイド下神経ブロックを併用し術後の患児に与える副作用を軽減で きないかを検討する


 血液凝固第[因子抗体(インヒビター)を有する血友病A患者の周術期管理の後ろ向き検討 (池田 慈子)

血友病A患者に反復して第[因子製剤を投与すると、第[因子に対する抗体(インヒビター)を生じることがある。このインヒビター保有患者の周術期に おける止血管理は、困難を呈する事が多い。過去6年間に当院で行われた血友病患者における周術期管理を後ろ向きに検討し、今後に役立てる予定である。


 ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術における術中体位が頭部および下肢血流に及ぼす影響 (池田 慈子)


外傷ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘術は、術者の視野確保のために患者は砕石位で高度の頭低位(約30度)で行われるのが大きな特徴である。この術 式に関連する合併症として、頭低位による頭蓋内圧が上昇し脳血流の低下を来す恐れがあり、また眼圧上昇に伴う眼障害が懸念される。それに加えて、下肢血流 の循環障害によるコンパートメント症候群の報告がある。今回我々は、無侵襲混合血酸素飽和度監視システムINVOSを前額面、下肢腓腹筋に装着し、体位変 換に伴う血流量変化を血流量係数(BVI)で計測し、術後の合併症との相関性を後ろ向きに検証している。

周術期の体液動態 (多田羅恒雄)

“水”は単にイオンや高分子の溶媒としてではなく、これら溶質と相互作用を することにより細胞活動に積極的に関与することが明らかになってきました。
手術の際にも大量の輸液を行いますが、輸液が少なすぎても多すぎても重篤な 合併症を引き起こします。当教室では、“生体にとって最適なhydrationとは何 か?”というテーマに分子レベルから臨床レベルで迫っています。

産科麻酔 (狩谷伸享)

お 産と麻酔はあまり関係がないように見えます。しかし米国では約20から25%が帝王切開で出産されているといわれていて、この割合は今後も増加すると考え られています。当教室の小濱華子、山岡樹里、三馬葵、松尾綾芳、中本志郎、トラバリーファラらはより安全で快適な帝王切開の麻酔について報告してきまし た。今後もお産を麻酔という側面から応援できるような研究を続けてゆきたいと考えています。

経食道心エコー(下出典子)

心 臓大血管手術の麻酔や心疾患合併患者の非心臓手術において、経食道心エコー(transesophageal echocardiography以下TEE)は必須のモニターであり、重要な情報を我々麻酔科医に与えてくれる。近年は機器の性能も向上し、この分野に おける麻酔科医のニーズは非常に高まっている。
当教室では、日本・米国経食道心エコー認定試験合格者を中心に、心臓大血管手術の麻酔に積極的にTEEを行い、より安全に麻酔管理できるよう努めています。

胎盤研究について (植木隆介)

産 科麻酔領域の研究の一つに、各種薬物の母体から胎児への胎盤移行性の研究があります。当院麻酔科では、太城教授の指導のもと、Schneiderのモデル を元にしたヒト胎盤小葉灌流モデルを作成し、麻酔薬の胎盤移行性について研究を行っています。前任者の何艶玲(He YL) 先生はプロポフォールの胎盤移行性について研究され、優れた業績を残されました。現在はそのモデルを受け継ぎ、局所麻酔薬の胎盤移行性について検討を重ね ています。この胎盤灌流モデルには、脊椎麻酔下に帝王切開を受けられた患者さんより提供された胎盤を用いています(当院倫理委員会の審査済み)。臨床では 作れないような母児の高度なアシドーシスなどの危機的状況についても、in vitroで検討できるため、各種薬物の胎盤移行性の研究にとって大いなる可能性を秘めたモデルといえます。産科小児麻酔に興味をもつ先生方が研究に加 わってくれることを期待しています。

周術期の侵襲抑制(井谷 基)

麻 酔では、手術の痛みや苦痛を患者に感じさせない事が重要になります。最近では麻酔に関する薬剤やモニターが著しく進歩し、安全で質の高い全身麻酔が出来る ようになりました。私が現在臨床研究している内容は、“術中の抗不整脈持続投与により、術後ストレスが軽減できるのかどうか?”という内容です。スタディ としては、シンプルで分かりやすいモデルで、今後もう少し症例を重ねて報告出来るように頑張っています。 スタディだけじゃなく、学生・研修医の教育も行っております。できるだけ若い医療者に麻酔の仕事・魅力を伝えていければと思います。

手術前の経口補水が全身麻酔時の循環動態におよぼす影響 (矢田幸子)

現 在、臨床麻酔の仕事をしながら大学院に在籍しています。大学院での研究課題は「手術前の経口補水が全身麻酔時の循環動態におよぼす影響」です。以前は麻酔 時の嘔吐防止のため、手術前には長時間の絶飲水が必要とされてきました。しかし、最近では手術2時間前までの経口補水は嘔吐の危険性を増加させず、むしろ 口渇感や不安感を減少させるという良い傾向が認められています。研究では手術前の経口補水が全身麻酔中の血圧低下を軽減するかを検討していきます。 また、臨床麻酔では安全性はもちろん、患者様にとって良質な麻酔を提供できるように頑張っていきたいと思っています。特に術後鎮痛は患者様にとって、とて も関心のあるところだと思います。今後、術後疼痛管理を術後の全身管理として捉え、術後のことも考えた麻酔、質の高い術後鎮痛を提供できればと考えていま す。




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